圧倒されますね。凄いです。完成度の高さ、あまりに透明で静謐な世界に頭の中が「なぜ・なに」でいっぱいになります。
ピアノの鳴らすあいまいな濁った響きがえもいわれぬメランコリック。対してイントロのピアノの5度の和声音程で刺繍するフレーズは調和して空虚。落葉しきってすかすかになった冬の樹々の寒々しい幹のまわりの空間を思わせます。
ボーカルをところどころなぞる伴奏をみせたかと思えば、歌詞“まだ若かったね” “そこへは戻れない”などの部分ではボーカルメロディが下行するのに対し伴奏のフレージングは雄弁に上行していきます。なんと音楽的・意匠的なことか。
ボーカルとピアノを基調に、間奏ではハープの絢爛なグリッサンドを合図に雄大なオケがあらわれ、ダイナミクスと豊かな音域・響き合いをみせます。フルートなども傍にいるでしょうか、主旋律を彩豊かにします。Aメロの進行をなぞったかたちの間奏で、Aメロはアタマからサスティン(掛留)でぶつけた響きを露呈していますが間奏のストリングスにもこのぶつかった響きが如実にあらわれており私の私の感動を高めます。ぶつかりや濁りとその解決こそが音楽の味わいのひとつである、ごく原始的な事実をあらためて教えてくれるのがオフコースの音楽であると再認識します。
間奏が終わるとまたボーカルとピアノに主導権が戻る印象です。Bメロを再現し、Aメロに戻って、そのままハミングで念押しして消えていってしまいます。雄大なオケを統率しながら、はかなく葉書大の額縁の水彩画のようにこじんまりと弓を置き、竿を下げてしまいます。心をおいてけぼりにされてしまう感じが、主題の『心はなれて』の通りであり、言いたいことをたくさん喉につまらせたままパートナーが去ってしまった憐れなひとりの男になった気分にさせます。ちょっと待ってよ……!!
青沼詩郎
『心はなれて』を収録したオフコースのアルバム『over』(1981)
OFF COURSE
オフ・コース