作詞:阿久悠、作曲・編曲:三木たかし。伊藤咲子のシングル(1976)。

えーーなんですかこれ、めちゃくちゃ良い編曲だな……と思ってしまう自分の偏りっぷりを意識してしまいます。いや、すごく良い。

オープニングから、なんだかキャンディーズの有名曲みたいなわくわく感がすごい。主音の低音保続で和声をうつろわせてスケールの大きい感じが出ていますね。さっそうとしたテンポで、ベースが同音連打をキメます。Bメロ?のとこのハイポジションがエモい。

ドラムスがスネアをほとんど用いずにベーシックのリズムを築いているのも興味深いです。スネアはフィルインのときなど、アクセントやキメで用いられています。シックスティーンのハイハットが細かく、ニュアンスに富みます。生演奏はこうでなくちゃ。

ワウのかかったエレキギターの刻みがハイハットの相棒といった風で、16分割を刻みます。これ、プレイヤーがだらしなかったらハイハットとむしろけんかしてしまうでしょう。バッチリ合っています。良い意味で火花が散っている。

複数のエレキギターづかいがまた編曲の妙についてうならせます。まんなか付近にチャカポコきざむワウギターがいて、左のほうに比較的高音域の目立つトーンのオブリガードギター、右にはやんわりとしたニュアンスが妙味でおだやかなトーン・フレーズ・音域でプレイするギターがいるでしょうか。性格のちがう3本を違う定位に配して調和させます。緻密な建築のようです。

ストリングスも16分割でこまかく刻んだり、表情豊かなトーンがでています。フルートのオブリガードがまたいい仕事。ブラスがほんとうに出どころを選んでスケール感をマッチョに・豊かにします。すごい全部盛り。

エレクトリック・ピアノが要所でじんと響き。

「シャラララーラー」……のバックグラウンド・ボーカルの印象が大きいです。このサウンドから歌詞に含まれる「春」らしさを感じるのはなぜか……前例となる何らかの楽曲が私の記憶の片隅で共鳴するようです。

伊藤咲子の歌唱はみずみずしくてかつ風格があります。全部盛りで緻密に調和した見事な編曲を束ねる、The 主人公といったところでしょうか。きみ、歌うまいね……

歌詞で印象的な“ひとこと云って きみ可愛いね”(『きみ可愛いね』より、作詞:阿久悠)ですが、主人公が、相手の口から聞きたい言葉を述べている表現だととらえるのがストレートな解釈でしょうが、相手の側から「きみ可愛いね」と発しているという風にとらえると、なんだか何回聴いてもそういう響きに聞こえてしまう気もします。なんだかちょっとチャラくて軽い年上の大人が上から言っているみたいで個人的には好かない響きなので、もし私が主人公の親戚とかだったらくれぐれも「(そいつからは離れなさいっ)」と耳打ちしたくなるところです。

実際は「指輪」が象徴するような、深く、社会制度的にもものをいうような絶対的な関係(しがらみ)なんて今は考えなくていいから、ただただいま私に可愛いって言って!という恋愛感情が噴出している初期衝動めいたものを勢いよく描く、颯爽とした恋の歌であるのが実情です。そういう恋の経験ってありますか? 遠いなぁ。

青沼詩郎

日本コロムビアオフィシャルサイト>伊藤咲子

参考Wikipedia>きみ可愛いね

参考歌詞サイト 歌ネット>きみ可愛いね

『きみ可愛いね』を収録した『BIG ARTIST BEST COLLECTION 伊藤咲子』(1994)。

『きみ可愛いね』を収録した『エッセンシャル・ベスト 伊藤咲子』(2007)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『きみ可愛いね(伊藤咲子の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)

君可愛いね