かもめ児童合唱団つながりで
かもめ児童合唱団は神奈川県三崎を拠点にしていて、その地域へ引っ越した音楽プロデューサー・藤沢宏光との出会いをきっかけに2008年頃から積極的にレコードやCDをリリースし始める。
斉藤和義、友部正人、坂本慎太郎ほか、私好みのアーティストの楽曲を多くカバーしていて、私は新しい音楽の世界の広がりをかもめ児童合唱団きっかけでたくさんいただいている。
Soggy Cheerios『あたらしいともだち』、メンバー、バンド名について
そんなかもめ児童合唱団のおかげで知った曲のひとつがSoggy Cheerios『あたらしいともだち』だ。Soggy Cheeriosのサード・アルバム 『Ⅲ』(2019年12月11日発売)に、かもめ児童合唱団とのコラボが収録されている。「あたらしいともだち」という歌詞のフレーズと、児童たちの合唱の組み合わせには曲の世界と現実を結ぶ説得力を感じる。
『あたらしいともだち』のオリジナルの発表はSoogy Cheeriosのセカンド・アルバム『EELS & PEANUTS』(2015年10月14日発売)で、1曲目に収録されている。作詞と作曲は鈴木惣一朗と直枝政広のご両人名義。
Soggy Cheeriosは鈴木惣一朗と直枝政広の2人組。あるいは、そのときによって乗り降りがある自由メンバーを含んでのユニット・バンドがSoggy Cheeriosかもしれない。鈴木惣一朗と直枝政広はともに1959年生まれ。2013年結成。
鈴木惣一朗
https://www.worldstandard.jp/
音楽プロデューサー・音楽家。
1983年にWORLD STANDARD(ワールド・スタンダード)を結成し、細野晴臣プロデュースで『WORLD STANDARD』をリリース。
ハナレグミ、湯川潮音、ビューティフルハミングバード、高田漣ほかプロデュースしたり関わったりしたアーティスト多数。
直枝政広
http://www.carnation-web.com/
1983年にカーネーションを結成、同バンドのギター・ボーカル。
大森靖子『絶対少女』プロデュース、森高千里、原田知世ほか多数へ曲や詩の提供もしている。
バンド名
Soggy Cheeriosというバンド名。意味が気になる。単語を調べてみる。Soggyはねっとり、ずぶ濡れ、びしょびしょ、じめじめ、湿っぽい、ふやけた、元気のない、無気力などの意味。Cheerioという単語はさようなら、ではまた、の意味。Cheeriosで検索すると特定のシリアル(穀類やドライフルーツの加工食品)の商品が出てくる。Cheerの喝采や応援、といった意味の単語も思ったけど、前者の「さようなら、ではまた」の意味がしっくりくるか。
…などと考えていたら、アルバム『EELS AND PEANUTS』の8曲目に『ふやけたシリアル』が収録されている! 自分たちをネタにしていて痛快。Soggy Cheeriosのおふたりはわかってやっていらっしゃる。
『あたらしいともだち』を聴く
(※)この曲のイントロを聴くと、私はある洋楽を思い出す。否。正確には、「どうしても思い出せない」。F#の低音の上で、ナインスにあたるG#をトップで同音連打する。このフレーズ、響き、私の記憶にある何かの洋楽の曲を猛烈に思わせる。でも、曲名やアーティスト名を思い出せない。ビートルズやポール・マッカートニーのソロにあったような気もしたけれど不見当。キャロル・キングとかだったかな? とも思ったけれどわからない。きっと、そのあたりのアーティストや音楽をSoggy Cheeriosのふたりは尊敬していると思う。
G#を連打しつつ、低音はBに進行。この瞬間、低音BにとってG#はシックスの響きになる。これはF#に解決する音。F#はつぎの小節のEの低音の上で保続する。低音EからみてF#はナインスの響きになる。
曲のキーはAメージャー。Aメージャースケール6、7番目の音であるF#やG#が随所で鳴り、濁った響きのもとになっている。
不協和や中間的な協和が物憂げ。中性的で、もどかしい。孤独を統べた直枝政広の歌声、鈴木惣一郎のマンドリン、ふたりがつくりあげたバンドの音がパーソナルに響く。イントロと同じナインスの響きがコーラスにも現れ、緊張を高めたり弛緩したりして感情に揺さぶりをかける。
後日談 ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー
(※)『あたらしいともだち』のイントロリフのオマージュ元、ぜったいビートルズだったんだけどな、と思っていた。曲名も収録アルバムも思い出せなくて、ざざざーーーっとサブスクリプションで手当たり次第にビートルズのあらゆる作品の冒頭をチェックしたつもりだったけど、おそらくそのときの私に抜かりがあったのだろう。超有名アルバム『アビイ・ロード(Abbey Road)』収録の『ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー(You Never Give Me Your Money)』だったと最近になってようやく気づいた。最近私がライブハウスで出会ったある音楽仲間がSoggy Cheeriosのように自作のなかでこのリフを引用していたので、その人に訊ねてようやく曲名がわかった(その人にもSoggy Cheerios『あたらしいともだち』を聴かせたら好反応だった)。
すっきりしたけど、ビートルズの代表的なアルバムさえ網羅して聴き込んでいない自分を痛感(曲名・アーティスト名とリフが結びついていなかっただけ、ではあるにせよ…)。もっと聴こうと反省した。
ビートルズの影響は計り知れないし、そのいずれも気持ちが良い。みんなが本気で好きだからだろう。音楽を愛する人との共通の話題になるから、余計好きになる。ビートルズから巻き起こった風をとらえなおして、自分のオリジナリティをカクテルして吹かせるSoggy Cheeriosのサウンド、ハーモニィ、歌声……『あたらしいともだち』には狂おしいほどの神妙な美しさが漂う。私の大好きな1曲。
後日談の後日談 ロッキー・ラクーン
『ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー(You Never Give Me Your Money)』こそが『あたらしいともだち』にしっくりきた曲だったけど、さらにあとになってビートルズを聴いていて気づいた。『ロッキー・ラクーン(Rocky Racckkn)』。これもかなり似た響きを基調にした楽曲だとおもう。
美しい響き、モチーフ。気に入った音楽上の語彙は、何回でも使って、登場させまくって、人生そのもの、すべての作品そのものが「一曲」みたいな作品をつくればいい。ポールの作曲に対する、寛くて深くて永い視野と柔軟な手技の絶妙さを思う。
青沼詩郎
『あたらしいともだち』を収録したSoggy Cheeriosのアルバム『EELS AND PEANUTS』(2015)
『あたらしいともだち』(かもめ児童合唱団と共演のボーナス・トラック版)を収録したSoggy Cheeriosのアルバム『Ⅲ』(2019)
『ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー(You Never Give Me Your Money)』を収録したThe Beatlesのアルバム『アビイ・ロード(Abbey Road)』(1969)
『ロッキー・ラクーン(Rocky Racckkn)』を収録したThe Beatlesのアルバム『THE BEATLES』(オリジナル発売年:1968)
ご笑覧ください 拙演