No Reply The Beatles
作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Beatles for Sale』(1964)に収録。
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泣いちゃう心が映った曲。実話としか思えないような悲しみがシックスコードのうわついた響きに憑依します。ソングライティングが実話を描く必要はないですしむしろ嘘のほうが聴くほうとしても救いがあるかもしれません。ドラマを、ほんとうの話のように魅せてしまう。これは優れたソングライターの必須スキルでしょう。
電話しても、いないふり。いるはずなのに。いないのでなく、出ないのだね。君の部屋に灯りがつくの、見たもん(見たもん……!!)。部屋に入っていくところだって見て、知っている。ぼくの居場所だったかもしれないところに、君はほかの輩といる……というようなストーリーと悲痛な情念が英語未習熟者の私なりに読みとれます。ほとんど死んだような気分だよ、という主人公の嘆きが、ジョンの強い叫びで伝わってきます。
情緒が強い曲で、しっとりとはかないヴァースなのですが、コーラスが強い叫びになっており痛烈です。
左側にギター、ドラムス、ベースなどが寄っています。右には、コーラスでドシーン! とアクセントするアディショナルドラム。あとはピアノも同調してアクセントのストロークを加え、ドシーン! の質量を増強。
コーラスの右側からの加勢以外では右側が空いているので、左側偏重のバランス感です。真ん中からボーカル、たまにピアノのダウンストロークが聴こえます。空いた右側からは、幽かにフィンガースナップのような音が聴こえる瞬間があるのは私の気のせいでしょうか。
クラップがかなり強く出ていますね。悲痛な恋の歌なのに、このにぎやかし。ちょっと自暴自棄になってしまうくらいに、「君」の浮気は主人公にとって悲しい背信行為です。
明るさとわびしさ・さみしさ・悲しさ。なめらかで平静でスウィートな演奏アプローチと、破壊衝動的なエッジーな演奏アプローチが同居しています。
イントロもなくさらっとした読後感(聴後感?)ですが、作詞作曲、アレンジ、演奏や表現力のクオリティの高さが詰まっています。すごいことをさらっとやっている。驚愕ですね。「売り出し中」と、自分たちをネタにした感じのアルバムタイトルの一曲目がこれです。もう売れてるし、売れるでしょこれ……っていう、世界クラスのモンスターのウィットです。
青沼詩郎
The Beatlesのアルバム『Beatles for Sale』(1964)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『No Reply(The Beatlesの曲)ギター弾き語り』)