人の息子 奥田民生 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:奥田民生。奥田民生のシングル『コーヒー』、アルバム『30』(1995)に収録。

奥田民生 人の息子を聴く

大轟音の様相です。終始オープンなサウンドでバンドを鳴らし続けます。これはいかにも、バンドでこそカッコのつく楽曲です。

根音(ベース音)がこまかく動くリフをヴァースの基調にします。歪んだコシと粘りのあるエレキの音で低音弦を響かせることで、楽曲の質量が構築されます。

ドラムスの終始元気で華やかなこと、「バカスカ」という擬音が似合うでしょう。ベースも下からしゃくり上げまくり、闊達に動きます。

間奏がギターヒーローです。ソロギターの音色のウェット感なのか、間奏以外はスタジオのルームサイズの音像ですが、ギターソロが始まるとまるでスタジアムのような空気(音響・残響の質感)が支配的になります。ギターソロってつくづく雄弁ですね。

ボーカルのハーモニーが厚いのもいかにもなOT(奥田民生)印です。フルオープンなバンドサウンドに負けないようにバッキングのボーカルトラックも厚くしたのでしょうか。シンプルなバンド編成なので、解像度高くしたメインボーカル1本のみの質感を前面に出す音作りもありえるでしょうが、ここは奥田民生さんらしく、バンドの生演奏とひとり多重録音のいいとこを併せ持ったバランス感です。

イントロは何やらシンセサイザーかその類のキーボードのような音色も入っているのか……何か爽やかな演目が始まる一瞬のわくわく感ですが、すぐさま多動で全開なバンドのサウンドに接続します。

ヘッドフォンでよくきくと、エンディングには謎の轟音が長く残ります。もしかして銅鑼か何かが入っているのでしょうか。

『人の息子』という主題は、「他人の息子」という意味もあるでしょうし、主人公(あるいは歌い手)自身の息子という意味もあるでしょう。この歌の主人公自身もまた、母親から生まれた「人の息子」であるわけです。

戦え若者よ わしらが楽になる

大活躍するのを待っている

大成功するのを信じてる

『人の息子』より、作詞:奥田民生

ボーカルがハダカになってバンドもブレイクし音像がドライになる、楽曲中最もドラマティックで耳を引く“戦え”のひとこと。一人称「わし」が出てくる大衆歌は稀な部類でしょう。あえてじじくさい一人称を選んで、若者との対比を強めます。

「息子」(子)には大成してほしい。普遍の願いでしょう。

反面、自分の子供には平常に、あるいは慎ましく、もっと言えば「人並みに」とか、さらにあやうい言葉をあえてつかえば「普通に」生きてくれればそれでいい、という願いを抱く親もいるかもしれません。どちらも普遍の願いでしょう。1万人の子がいて、1万人すべてが大活躍して大成功する世界はアンバランスです。

「大成功や大活躍」とは違うニュアンスで、人生を謳歌し、他人の役に立ちながら我が道の追求に邁進する方法はいくらでもあるでしょう。いえ、「いくらでも」というイージー(安直)な課題ではなく、難問かもしれない。そこに挑むことが、「(息)子のつとめ」なのでしょう。健やかな未来を祈るばかりです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>コーヒー (奥田民生の曲)

奥田民生 公式サイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>人の息子

『人の息子』を収録した奥田民生のアルバム『30』(1995)

『人の息子』を収録した奥田民生のシングル『コーヒー』(1995)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『人の息子(奥田民生の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)