今はしんどいけど、あとちょっとで何か乗り越えられそうなときに聴きたい・唄いたい歌です。
涙をふいて 三好鉄生 曲の名義、発表の概要
作詞:康珍化、作曲:鈴木キサブロー。三好鉄生のシングル、アルバム『Tessei』(1982)に収録。
三好鉄生 涙をふいてを聴く
三好鉄生さんの歌唱は力づよくエネルギーがあり、ちょっとテンションを緩めた瞬間にほろっとしたさびれ感・哀愁が漂います。ファンには全然違うよと突っ込まれてしまうかもしれませんが、私としては矢沢永吉さんの歌唱を思い出します。
アコギをかき鳴らして、みんなで肩を組んで大団円をなしてシンガロングしたくなります。オープニングかエンディングかで言ったら絶対エンディングテーマです。休符を活かしてゆったりと紡いでいくボーカルメロディ。2コーラス半で4分台後半に迫るボリュームです。
エレキギターのカリっとピタっとしたタイトなカッティング、かつオブリガード・フィルインが雄弁です。和声的なフレージングやブルージーな表情と語彙が豊かなフェンダー系を思わせるクリーン・クランチサウンドのギター。存在感と華々しさ・頼もしさのある花形です。
ぬれた まつ毛 ふきなよ あれからつらい 暮らしをしたね やせた お前の肩を この手に抱けば すべてがわかる 涙をふいて 抱きしめ合えたら あの日のお前に 戻れるはずさ 涙をふいて ほほえみ合えたら 遠い倖せ きっとふたりで
(『涙をふいて』より、作詞:康珍化)
私の思う「永ちゃん」感の一因は、歌詞の「オレ」や「お前」といった人称代名詞にありそうです。もちろんこれらの人称を用いればなんでも「永ちゃん」を私に思わせるわけではないでしょう。やはり三好さんの声の漢気あるキャラクターが、私の偏見を引っ張るのかもしれません。
泣いて 涙涸れても 心に愛は消せやしないさ 迷いつづけた人生 今日からお前 離しはしない 涙をふいて 抱きしめ合えたら どこかで明日が 待ってるはずさ 涙をふいて 歩いて行けたら 遠い倖せ きっとふたりで(『涙をふいて』より、作詞:康珍化)
ほとんど観念的な語彙で構築された歌詞です。大団円的で、加わる人を選ばない所以でしょうか。映像として、特徴のある具体物が出て来ません。主人公ともう一人くらいの登場人物が、走ったり、笑ったり泣いたり浮かない表情を見せたり……一つの映像が複数の曲に使いまわされる、ある時代特有のカラオケ映像みたいなものを想像してしまいます。歌い手も、聴き手も選ばずに門戸の広い歌としての意匠を備えています。
イントロのペンタトニックスケールのモチーフが、筒美京平さん作品で聴いたことがある何かに似ている気がします。そう……堺正章さん『運がよければいいことあるさ』。それから平山三紀さん『フレンズ』なんかも、ちょっと哀愁があるけれど雰囲気がポジティブで建設的に「ふっきれた」歌だという点で通ずるアティテュードを見出せます。苦境や苦痛を乗り越えた、過去や起きてしまった事実を受け入れたような爽やかさがあり、いずれも私の好きな歌です。
そう、三好さんの歌唱のキャラクターの表面上の質感に矢沢永吉さんを思い出しましたが、楽曲の本質的な態度は堺正章さんや平山三紀さんの歌に宿ったそれだと思いのです。
今はしんどいけど、あとちょっとで何か乗り越えられそうなときに聴きたい・唄いたい歌です。
青沼詩郎
『涙をふいて』を収録した三好鉄生のアルバム『Tessei』(1982)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『涙をふいて(三好鉄生の曲)ギター弾き語り』)