WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント〜 H Jungle with t 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:小室哲哉。H Jungle with tのシングル(1995)。

H Jungle with t WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント〜を聴く(配信シングルより、“TWO MILLION MIX ”)

1995年は私が9歳だった頃で、当たり前のように存在した曲がこれでした。ダウンタウンの出演する番組は音楽でもそうじゃなくてもなんでも「ゴールデン」然とした一般的な広い認知を有していると思えるものばかりでした。

サビが2個あるみたいに思えます。「Wow Wow War……」のところがまずサビ。洋楽的にいったらコーラスでしょう。それから「Hey Hey Hey」のところがもうひとつ、私には「サビ」的な熱量を感じる箇所です。これ、当時テレビ放送していたダウンタウンが出演(MC)する音楽番組の名前になっているのが巧い。今更ながら、ニヤリとさせる部分です。

先に述べたように子供の頃から「存在が当たり前」すぎる曲で、中学生や高校生や大学生になってもなかなかあらためて、目を閉じて心のまぶたを開いて聴くようなことがありませんでした。今改めて聴いてみるに……

レゲエのリズムで前半がつむがれます。MIDI鍵盤で打ったような、デジタル空間のサウンドは小室さんの肌そのものという感じで、私はこうしたプログラミングをベースにするスタイルの音楽に陳腐さを感じがちになる悪癖があるのですが、小室さんの作り出すこれは本当に、ご本人が表現のツールとして最も頼りにしている心からの相棒という感じがするので良いなぁと素直に思えるのです。

プヒーとサックスの高音をひっくり返した馬だか獣だかが鳴くような音が繰り返しコラージュされたり、人の声も繰り返しコラージュされたり、ベーシックトラックを音楽的に作ってあってさらに「楽音」っぽくない効果を狙ったような音が無尽かつ緻密に行き渡らせられていて、壮大なブルースが構築されています。

「みんなのもの(歌)」なのに、小室さんや浜田さん個人のブルースにも思える。これはヒットにもうなずけますし、ヒット曲とはそういうものであってほしいという私の個人的な願望やエゴをもうなずかせてくれます。背後に感じるアティテュード、魂柱が天に向かってまっすぐ立っているのです。その表面の質感が、たまたまジャングルビートだったり前半付近のレゲエだったりするだけという……音楽のスタイルを、主題のために味方につけて接合して送り出す名人芸を思わせます。

ジャングルというのは私も知識量が足りませんが、サンプルしたドラムビート、パターンを再生速度を変化させて用いるものだといいます。「hey hey hey」……に入る前の間奏で松本さんが怪しくて近いい声(オン・マイク)でアルファベットの呪文を唱える次あたりの展開から明らかにビートがせせこましくなります。このあたりがジャングルの特徴をとらえて小室さんという骨肉を通って再抽出された「H Jungle」でしょう。

コーラスに女声がいるのが聴き取れ、誰だろうと思ったらなんと六本木のクラブにいた一般客(?)をDJ KOOさんが声かけして連れてきた人だといいます。なんだかビートルズにもそんなようなエピソードがあったような。「プロくささ」が悪い意味になることが音楽の世界では皮肉にもしばしばあり、「大衆の歌」であることを尊重するとき、音楽を生業としない人の声や音が最上の機能を果たすことがあるのです。

コーラスには下の字ハモなんかに小室哲哉さんの歌声っぽく私の耳に聞こえるトラックがいる気がします。小室さんは歌よりもトラック、作曲、サウンドメイクやプロデュースなど、センターで歌う人を支えたり背後から光を放つ役割の人、というイメージが強いので、小室哲哉さんの肉声らしいものが、心のままに歌っている(ように聴こえる)ところを認めて私は胸熱な気分です。

歌詞 俺らのアンセム

たまにはこうして肩を並べて飲んで ほんの少しだけ立ち止まってみたいよ 純情を絵に描いた様なさんざんむなしい夜も 笑って話せる今夜はいいね… 温泉でも行こうなんて いつも話している 落ちついたら仲間で行こうなんて でも 全然 暇にならずに時代が追いかけてくる 走ることから 逃げたくなってる

(『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』より、作詞:小室哲哉)

余暇を心のままに愉しむイマジネーションを持ちながら、時計の針に追いかけられるように永続する「生業」のために走り続けます。

16のリズムで空をいく 昔の誰かに電話して 貰った花をまた枯らしながら今度呑もうねと嘘をつくのさ

(andymori『16』より、作詞:小山田壮平)

『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』の話を逸れますが、上記はandymoriの私の好きな一曲の一節です。

今度ゆっくり呑めるものなら飲みたい。そんな気持ちは確かにあるけれど、それは日常のルーティン、その流れに圧迫されて大半が「嘘」になってしまうだろう……そう云う「虚無」「空しさ」を私に想像させる『16』という楽曲の歌詞(もっと広義な解釈が可能なのはさておき)ですが、『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』の前半の歌詞がこれに重なって思えるのです。

呑もうとか温泉に行こうとか、心の底から「リップサービス」で言っている可能性も考えうるでしょう。考えるだけでも自分が嫌な大人になったなと思うのですが、日常のルーティンとして個人で好きなことをしているほうが良い、他人に合わせて何かを嗜む余裕などないという人格が私の中に棲んでもいます。

しかしまあ、『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』の前半の歌詞を字面通り素直に受け止めるのであれば、これはリップサービスで「温泉でも行こう」と嘘の気持ちを述べているのではなく、あくまで「気持ち」の真偽としては、余裕を作って温泉行楽をしたいと思っている、その「気持ち」は本物であると思えます。

当時のリアルの浜田雅功さんであれば、嘘偽りのない事実として、実際の多忙さから、温泉でも仲間と行きたいと思っていてもそれが許されない状況だったかもしれません。

それを汲み取る小室哲哉さんの実直で「素」の手触りを備えた詞(ことば)が沁みます。

私の中で小室哲哉さん作曲の作品として存在感が大きい楽曲をふたつ挙げるなら『Get Wild』『BE TOGETHER』なのですが、いずれも小室みつ子さんの作詞です。『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』は、小室哲哉さんが「詞(ことば)」のフォーマットで鑑賞者にどういうアプローチをとるのかが伺える好例ではないでしょうか。

音楽面ではさまざまなコンテクストを消化して最表面の質感を導き出す「飛距離」が先進・先鋭的なイメージを演出しうる小室哲哉さん作品だと思いますが、その根底にある人肌から人肌に伝う「体温」が、「詞(ことば)」の体裁をとったときは距離や壁を省略したスピード感で伝わってくるのです。ヒヤっとしたかと思えばすぐさま向こう側の温もりが伝わってくる、薄いアルミニウムみたいです。

Hey Hey Hey 時には起こせよムーヴメント がっかりさせない期待に応えて素敵で楽しい いつもの俺らを捨てるよ 自分で動き出さなきゃ何も起こらない夜に何かを叫んで自分を壊せ!

(『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』より、作詞:小室哲哉)

楽曲の顔に思える、最も熱量あるラインです。言葉の密度も圧倒的で、「がっかりさせない~」の早口フレーズは小学生だった私に刷り込まれました。早口でややこしそうなのに、むしろこの一節ばかりを強く記憶していたくらいです。

「がっかりさせない~」のフレーズが強烈に記憶に残る一因に、各単語のアタマが表拍にきっかり当たっているシンプルさを挙げておきます。「がっかり」「させない」「期待に」「応えて」「素敵で」「楽しい」。16分音符で4音の「字脚」を持つ単語をきれいに敷き詰めて詰め寄ります。

あか抜けていてトリッキーかつ病み付きになるリズムを作詞で実現したいとき、さまざまな位置にアクセントがある単語を複雑に組み合わせるのもひとつの手法だと思いますが、『WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~』のこの名フレーズはまるでその真逆を行きます。「愚直」と思わずこぼしてしまいそうなほどに、アクセントの波がストレートでシンプルなのです。

これは確信犯だと思います。この愚直なリズムをあえて良しとして、「俺らの賛歌」「最高の自己肯定ブルース」の遺伝子として刻んだのだと私は思います。アクセントの波がトリッキーで難しかったら、みんなで歌えないではありませんか。

「みんなに歌わせない。アーティストによるアーティストのためだけの“魅せる”目的の歌なのだ」ということであれば、むしろ愚直なリズムのごり押しは悪手かもしれません。でもこれは違う。twoミリオンのための、twoミリオンによる、twoミリオンのアンセムなのです。アクセントを揃えて、みんなでごり押ししようぜ。忙しいビートにのせた16分割の細かさも、このシンプルな語彙とアクセントなら怖くないぜ! 俺らは温泉地でもどこでも一緒に行けるんだぜ!

そんな勇気と親愛に私はグっとくるのです。

どこまでも「みんなのため」であり、どこまでも「俺自身」「俺ら自身」のための詞(ことば)と音を編んでいるのです。仲間と至る未来の温泉地を望む「一人ぶんの足元」は、ジャパニーズポピュラーミュージックを代表する不世出の作家とて同じなのだと、肩を組ませてくれる気分です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント

参考歌詞サイト 歌ネット>WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント

小室哲哉 avex公式サイトへのリンク

H Jungle with tのシングル『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント〜』(1995)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント〜(H Jungle with tの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)