蒼い夏 吉田拓郎 曲の名義、発表の概要

作詞:岡本おさみ、作曲:吉田拓郎。吉田拓郎のアルバム『伽草子』(1973)に収録。1999年、映画『学校の怪談4』主題歌となりシングルカット。

吉田拓郎 蒼い夏を聴く

ギターのスリーフィンガー奏法を思わせる素地が流麗です。ガラス窓に映った姿をフレームの中におさめるみたいに、ギターの音像が広がりを持ちます。これは複数のギターをダブったのでしょうか。もしくは一本の演奏を複数のマイクでおさめたのか。

ボーカルも短旋律をずっとダブルで歌った音像です。素朴な発声を貫きます。

単旋律のピアノが寂しげで美しい。

ベースギターもなくて、アコースティックギターの低音弦が4拍を強調します。ピアノはほんとうに旋律を描きこむだけのために、前奏、間奏、後奏にだけ、一貫して単旋律であらわれます。

同じ構造を4番まで繰り返す構成もシンプルです。日記的でもあります。

盂蘭盆会ちらちら

燈籠流し 水明かり

蒼い夏に 祈りあり

いつか亡びる この海が

肌をじりじり こがすので

今夜きっと寝つかれぬでしょう

『蒼い夏』より、作詞:岡本おさみ

盂蘭盆会とははじめてきく単語でしたので検索しました(参考Wikipedia)。検索してみても、あまりピンときません。自分(私)に盂蘭盆会の記憶や体験がないからでしょうか。とにかくお盆の行事であること。七月の半ばくらいにおこなわれるものであること……のような点が伝わってきます。

タイトルの『蒼い夏』。「青い夏」としても、意味合いやニュアンスがそう著しくかけ離れることはない気もしますが、「蒼い」とすることで、より、未熟であったり、「時期が早いところに位置している」ことを強調するように私個人としては感じます。

盛大に暑すぎる夏が訪れる前の時期。七月の半ばは、夏が「蒼い」ように思えます。

裸の子 じゃぶじゃぶ

おちんちんさえかわいくて

蒼い夏が はしゃいでる

きみは夏みかん剥きながら

早く子供が欲しいなぁ

わざと言って 溜息ひとつ

『蒼い夏』より、作詞:岡本おさみ

やはり「蒼」をおもわせる表現がつらなります。「はだかのこ」、「おちんちん」。すっぱだかになって川や溜池や噴水などで、公衆の門前であそんでもさしつかえないのは幼児の特権です。別に大人でもそれをしたいよう、くやしいです!と思う私ではありませんが……

「おちんちんさえかわいくて」に続いて「きみは夏みかん剥きながら」というフレーズがつづくと、なんだか性成熟の表現をおもわせます。自分でむくのでなく、早く子供が欲しいとなげく君がそういっているところがまたややこしい(良い意味でドラマティック)。

誰もが「蒼い」時期を経て、みかんの皮も夏の皮もむけていくのです。

いつか亡びる この海が

肌をじりじり こがすので

今夜きっと寝つかれぬでしょう

老夫婦 はらはら

すごした日々が朽ちてゆく

蒼い夏に淋しさあり

ぼくは平凡な愛妻家

もうなにも考えまい

愛することのわずらわしささえ

『蒼い夏』より、作詞:岡本おさみ

夏の皮もみかんの皮もおちんちんの皮もむけて、老夫婦に至るのです。

人生のすべてが「蒼い夏」に詰まっているみたいな4つの詩のブロックです。

人生には四季が含まれている気についなりますが、実は人生はたった一つの「蒼い夏」なのだと。

青沼詩郎

参考Wikipedia>伽草子蒼い夏

参考歌詞サイト 歌ネット>蒼い夏

吉田拓郎 公式サイトへのリンク コンセプトミニアルバム『ラジオの夢』を2024年11月20日にリリースとのこと、発表されています。アルバム『ah-面白かった』(2022)がラストアルバムといわれていた気がしましたが新作。いのちが尽きません。

『蒼い夏』を収録した吉田拓郎のアルバム『伽草子』(1973)