開催が迫る(この記事の執筆時)、くるりが主催する音楽イベント「京都音楽博覧会2024 in 梅小路公園」。くるりがDJを担当する京都アルファステーションの番組「FRAG RADIO」の月曜日の放送を聴いていると、音博に向けて関連情報や出演者のレパートリー、あるいは出演者からのボイスメッセージなどがひんぱんに紹介されリスナーを盛り上げます。

くるりが好きなのだと、ただのファンなのだと「FRAG RADIO」にボイスメッセージを寄せた音博2024出演者のmiletさんは、くるりにはまり始めた頃に認知した楽曲の例として『温泉』を挙げました。

ばばんばばんばんばん……でおなじみのドリフ『いい湯だな(ビバノン・ロック)』でもなければ、温泉を主題にした曲といえば俄然くるりの『温泉』でしょう!

温泉 くるり 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』(2010)に収録。

くるり 温泉(『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』収録)を聴く

ドラムがboboさんの3人くるり。

音数が絞られてはじまります。一人ひとりのパートの演奏のよさ、音の輪郭、タッチが明瞭で奥行きがあります。いい音だな! と。

オープニングから1コーラス済むところまではほぼアコギ&ボーカルのトリオ編成の様相です。イントロのあたりにはうっすら右にエレキギターのクリーンサウンドが奥ゆかしくいるくらいでしょうか。メインのアコギは左寄りです。

ワンコーラス済むとチェロのまっすぐなボウイングが入ってきます。それからトリプレット系のグルーヴの蜘蛛の巣のうえで身じろぎするようなナイロン系のギター類のアルペジオがサウンドに彩の幅をもたらします。カラっとしたアタック音が輝かしい。

後半にむけて可憐で乙女チック・甘美なバックグラウンドボーカルも入ってきて私の思うくるりっぽさ、彼らの特長サウンドを覚えます。シンプルなアコースティックのトリオに終始してもじゅうぶん滋味深い楽曲ですが、“べっぴんさん”よろしく、ほどよいお化粧のアクセントで素材を活かしたナチュラル美とつきものがおちるようなすっきり感。温泉の主題をサウンド面の意匠でも表現します。

ドラムスのゴーストノートの分割がすばらしい。随所のタムのアクセントがくるり特有の和モノ感に加担します。ベースのサウンド、プレイの細やかな動きや息遣い、ニュアンスの機微もぺっぴんさん。絞った音数で鑑賞するほうもそういう素地の部分を堪能しやすいです。

“愛のちからも 信じる気持ちも こころ休めて生き返れ は〜 ほら べっぴんさんだよ”(『温泉』より、作詞:岸田繁)

ラインの結びが楽曲の「顔」です。べっぴんさんの名詞どおり、印象深いフレーズです。

世の生活は厳しいもの。有象無象と戦ううちに、体に泥もほこりも汗も涙もときに血も……どんどん上塗りされて汚れていくのです。それを汚れというのか、エイジングの持ち味というのかもまた観点ではあります。

ヒトの体は本来うつくしい。心もうつくしい。愛する気持ち、心の無垢さも美しい。それそのものであるだけで、それは価値がある……あるいは価値を凌駕した財産、資源なのです。それがいつのまにか、些事の成層にマスクされてしまう。

そのマスク:覆いからの解放がこの楽曲『温泉』の主題ではないでしょうか。

“は〜 あっちちのち〜”(『温泉』より、作詞:岸田繁)

これです。これが、本質的「コーラス」にあたるのではないでしょうか。みんなで声を素朴にあわせて、は〜。あっちちのち〜。ため息(おちつくときに吐く、良いイメージのやつです)とともに抜ける安息そのもの。誰かとその瞬間を共有できたら、それは最良の旅のハイライトです。

青沼詩郎

くるり 公式サイトへのリンク > 言葉にならない、笑顔を見せてくれよ

参考Wikipedia>言葉にならない、笑顔を見せてくれよ

参考歌詞サイト 歌ネット>温泉

『温泉』を収録したくるりのアルバム『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』(2010)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『温泉(くるりの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)