Last Christmas Wham! 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:George Michael。Wham!のシングル(1984)。
Wham! Last Christmas(Single Version)を聴く
甘い声が変幻自在です。ヴァースのボーカルのリズムや抑揚が複雑です。歌詞にあわせて柔軟に変幻します。一行一行を、入れ替わり立ち代わり別のシンガーが歌うって、総勢何人もいるグループかのように感じるくらいに、一文ごとのニュアンスの変化に富みます。コーラスはみんなで歌いやすい感じなのですが、このヴァースが親しみやすいコーラスの対比になっていて肝要です。
物語を進める……つまり主人公の現在と背景を語るのがこの曲におけるヴァースの役割になっていると思います。幸せハッピー!な日本人が季節的なものとして親しみやすいいわゆるクリスマスソングですが、歌詞の内容は傷心なのですね。新しい恋をみつけてその人に捧げる……それが実現するところなのかどうなのかまではわかりかねますが、去る、昨年のクリスマスと現在までのドラマを歌っているようです。
1、3拍目で鳴るキックが恒常的です。デシデシ!とスネアのサウンドに存在感があります。基本、オケトラックは打ち込みだそうです。達者・流麗とは言い難い、朴訥としたドラムトラックの恒常・平常なフィールが、甘くせつなく、情緒に富んだボーカルトラックの対比になっています。ベースは少し短く切った感じのストロークが恒常的に8分割を刻みます。このベースも打ち込みなのでしょうか。
カウンターメロディあるいは間奏のミュージックチャイムあるいはトーンチャイムのような音色が深く、前面にでていて脳内全体に響くような存在感があります。
音の景色や様相、リズムやグルーヴが基本ずっと保たれていて、最初から最後まで安定のもと聴かされてしまいます。それでいて冗長でもありません。やはりキビキビしたメリハリとスウィートさを兼ね備えた歌唱が肝でしょう。コーラスでシンガロング的に厚みを増します。
リンリンリン……とスレイベルが要所で鳴ります。都市にトナカイはいないでしょうが……心のなかのものが視界の奥から飛来します。
プログラミング主体のトラックが、雑味のないしんとした空間づくりに貢献してボーカルの情緒を雄大に発揮しています。
和声はずっとⅠ・Ⅵm・Ⅱm・Ⅴで最上のシンプル。Dメージャーキーですが少しピッチ感が独特で、A=440とかA=441なのか疑問です。そこがこの曲の儚い独特のサウンドの一因でもありそう。
鈴の音とともに毎年、Last(去し……去年の)クリスマスを更新するわれわれよ。
青沼詩郎
Wham!のシングル『Last Christmas』(オリジナル発表年:1984)