THANK YOU MY GIRL くるり 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『THE WORLD IS MINE』(2002)に収録。
くるり THANK YOU MY GIRL(アルバム『THE WORLD IS MINE』収録)を聴く
さわやかに駆け抜けてしまいます。曲が短い。それもある。曲調が颯爽としている。それもあります。ふわっといなくなってしまうように儚いのです。ありがとうという気持ちの儚さなのか。
いつも永続的に感謝の念で満ちていられたらいいのに。でも私はすぐに、日常の「もごもご」に覆われて追われて感謝を忘れてしまいます。
忘れるは、まだ取り戻すことができる観念である……そんな風にも思います。失ったり、消えたり、命を落とした(亡くなった)わけではないのですから。
それぞれのメンバーがそれぞれの楽器を鳴らして、融合するときに熱を帯びたり、ちりついたり、単体では成し得ない波の合成が起きている。ビートルズの楽曲を聴いていると時折そんなことを思うのですが、この『THANK YOU MY GIRL』を聴いていると、(この時期の)くるりもバンドしているなぁなどとしみじみ思います。私が高校生くらいの頃から大好きで頻繁に聴いてきたこの曲ですが、30代後半になった今あらためて聴く感慨がまた一味ちがいます。
ギターが厚いのに重々しくないのです。爽やか。春風に吹かれて花びらのように舞って飛んで行ってしまいそう。和声的な印象を大きく打ち出すのに成功しているせいでしょうか。間奏のツインギター風のギターソロが『THANK YOU MY GIRL』のサウンド的な魂柱……というかハイライト。
ドラムがまた「おかしみ」に満ちています。エイトビートなのに、キックがちょいちょい何やらおかしなことをしている。16分割でちょっと食ったりして、和を乱すではありませんがみんなであぐらをかいて輪になってウノをしているのに、ウノの片手間でひとりトランプをシャッフルしている奴がいる……そんな「イレギュラー」とか「マイペース」を感じさせるキックの入れ方が私に「おかしみ」をおもわせます。「何してんねん」(フフッ……と笑かします)。このおかしみのタネなのか、ドラマーが二人クレジットされています。オリジナルドラマーの森さんに加えて、PATRICK HANNANの名前が並びます。
キックの、いい意味で波長に「乱れ」を与える感じのスパイスは、ふたりのドラマーが魂を注いだ結果なのかもしれません……つまりこれ「ツインドラム」サウンドかな? ドカドカとした独特のサウンドです。ふたつドラムが入っているものとしても、定位を分けてそれぞれを独立させたり対立させて聴かせる構図ではないようです。あくまで、概ねおんなじ位置(定位)から、描線の芯に幅のある感じのサウンドのドラムの猛々しい演奏が聴こえてくる印象。颯爽としていて儚い匂いをまとう複数のギターとのキャラクター面の対比が利いています。
性格の違うギターステムとドラムステムを接着するのがベースのまっすぐな描線です。順次進行を極めたようななめらかなベースラインが「くるり的」です。ガチャガチャっとエレキギターやドラムを鳴らしてヤンチャボーイを演じるのは入門者にもたやすいでしょうが、ガチャっとしたバンド編成のスタイルに音楽的な素養深さの串を通し、深淵な趣味の香りのアクセントを振りかけて端正なソングライティングとサウンドスケープに昇華している。これがくるりの真骨頂です。だから私はこの曲が好き。「真骨頂」が多すぎて奇跡みたいなロックチームがくるりです。
青沼詩郎
参考歌詞サイト 歌ネット>THANK YOU MY GIRL
『THANK YOU MY GIRL』を収録したくるりのアルバム『THE WORLD IS MINE』(2002)