エメラルドの伝説 ザ・テンプターズ 曲の名義、発表の概要
作詞:なかにし礼、作曲:村井邦彦、編曲:川口真。ザ・テンプターズのシングル(1968)。
ザ・テンプターズ エメラルドの伝説を聴く
ショーケンさん(愛称で失礼)の絶唱。儚く可憐な息になびかせる優しいタッチのAメロの歌唱。サビをまわりエンディング付近の“口づけを”の一息の堂々たる響き。
短調の性格がよく出ていて、正直1〜2回さらっと聞き流した程度にこの曲を認知していた頃は「湿っぽいなぁ……」と感じていました。湖にちょろっと望んで、すぐ立ち去ってしまうような私でした。
自分でコードやリードボーカルのメロディ、歌詞を聴きとったり演奏してみたりすると手応えがあってイメージが変わりました。先の段で触れたショーケンさんのボーカルパートの振れ幅あるドラマティックな歌唱、オケやバンドのダイナミクスの向こうにある何かが身をもって感じられた気がしました。
湖に 君は身をなげた
花のしずくが 落ちるように
湖は 色を変えたのさ
君の瞳の エメラルド
遠い日の 君の幻を
追いかけても むなしい
会いたい 君に会いたい
みどりの瞳に
僕は魅せられた
湖に僕はひざまづき
みどりの水に 口づける
『エメラルドの伝説』より、作詞:なかにし礼
世界にこういう“伝説”のある湖がありそうです。色が特徴的で、その不思議さ・神秘的な姿に観光客が納得してしまうさもありなんという物語がつけられる。ホントかどうかわかりませんし、ホントかどうかに興味のある人もそういない。それでいい。エンターテイメントと同じなのです。それはさておき……
主人公が語る“君”の瞳はみどり。つまりエメラルドのような色をしている模様。君が身投げをしたら、その湖自体が君の瞳の色そっくりの色に変わってしまったのです。
湖に君の命そのものが溶けた。瞳は雄弁です。目は口ほどにものをかたる。目はその人の人格、生命の象徴と喩えてもいいかもしれません。もちろん瞳をもたない全盲の方も世にはいますから、この喩えは「そういう視点もあるね」程度の話と思ってください。しかし今何気なく「視点」という言葉をつかったくらいに、「目」を中心にした言語表現も数多あることから人類が「目」の恩恵によって長く生きてきた事実も同時に思います。それはさておき……
君が身をなげた湖自体が、君の命そのものになりかわったみたいに思えます。その湖のたずさえた“みどりの水”に主人公は口づけます。恋慕の表明です。
もともとみどりっぽく見える湖というのも世にはあるでしょう。君が身をなげた衝撃的な事件のせいで、その「みどり」の原因すべてが「君」にあるような気がしてしまう。衝撃的な事件は事実を覆い、突出して極端な「真実」を人に植え付けます。真実は主観的なものなのです。みどりの水にケチをつけるみたくなってしまったかもしれませんがそれはさておき……
オーボエの身もすさぶようなさびしい音色が抒情的です。チェロパート、それから間奏のリードギターのあたりではホルンなど中低域のオケ楽器も目立ってきます。ただのGSバンドメンバーが自身らの奏でる楽器のみで組むアンサンブルではない。スタジオミュージシャンと編曲の専門手腕を借りて「伝説」を彩ります。まさに湖面に反射する輝きをたずさえた宝石、エメラルドのようなサウンドです。
左に定位するギターのダイナミクスの弾き分けが良い。またリードギターの詰め寄る怒涛のリズム。鬼気迫るものがあります。君が身を投げる事件が主人公にもたらした衝撃を表現するかのよう。右に定位したドラムスのシンバル類のグワン・バシャンと派手なサウンドも激情をあおります。
ある瞬間みどり:エメラルドにかわってしまったかのような湖。でも君の瞳のみどり色も、先祖から受け継がれたみどりであるはずです。湖の今日の姿と一緒です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>エメラルドの伝説, ザ・テンプターズ
『エメラルドの伝説』を収録した『ザ・テンプターズ・コンプリート・シングルズ』(1999)
『エメラルドの伝説』を収録した『5-1=0 ザ・テンプターズの世界』(1969)
グループ・サウンズ, GS, The Tempters
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『エメラルドの伝説(ザ・テンプターズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)