明日晴れるかな 桑田佳祐 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:桑田佳祐。弦・管編曲:島健。桑田佳祐のシングル(2007)。同年のドラマ『プロポーズ大作戦』(フジテレビ)主題歌。
桑田佳祐 明日晴れるかなを聴く
絹のような、撫でるようなやさしい息で声帯をなびかせたかと思えば噴き上げるような雄叫び。桑田さんのボーカルには私の脳に直接コミットする内部経路が備わっているみたいです。私は電波をキャッチしたプレーリードッグだかミーアキャットみたいになって桑田さんの歌声のふってくる空と背筋をのばしてつながるのみなのです。
ソングライティングはやっぱりドラマ『プロポーズ大作戦』の内容を前提に書かれたものなのでしょうか。このドラマ、リアルタイムで観ていた私。テレビのプログラムを放送時に、同時代のものとして心の底から楽しんだ最後の記憶が『プロポーズ大作戦』なんじゃないかと思えるくらい記憶に残っているドラマです。確か時間を戻って主人公がいろいろとやり直しに挑む内容だったと思うのですが……観ていたときは意識しませんでしたが、「タイムリープやり直しもの(そんなジャンル名はないと思いますが)」という点についていうと私のフェイバリット映画のひとつ『バタフライ・エフェクト』ともスジが似ている(共通点がある)なと思います。
カノン進行みたいに、4度間隔で………ツー・ファイブ(Ⅱ-Ⅴ)的な進行をふんだんにつかったかと思えば準固有系の「ヒヤリハット」的な響きを急に放りこんでみたりと非常に西洋音楽的なギミックに富んだソングライティングです。オケのなかにもチェンバロ……バロックの鍵盤楽器的な音色が活躍します。ドラマにも出てくるシーン「結婚式」を思わせる絢爛でミヤビでイノセントで純白な音色・サウンドです。
そう、オケがなんとはなやかか。ピアノのイントロにうっとり。からんでくるアコギのアルペジオが正確に調和を図り寄せてきます。ピアノもいるのにくだんのチェンバロのダウンストロークも合致します。ストリングスもいるしホーンも遠くに虹を咲かせる奥行き。
エレキギターの音色はアナログテープに通して意図的にきつく「こよこよ」させたみたいな音色。これはドラマのキー要素、「タイムリープ」を表現した音色だと私はウンウン首を縦にふります(もし制作者側がそういう意図でやったんじゃなくてももう私の中での正解はそれでいい!)。
字ハモのボーカルにバックグラウンドのボーカルも福の音色。ベースとドラムのキックの位置は完璧に示し合わすのではないのに調和している。どこか、主人公の努力が報われたり報われなかったりするみたいなちぐはぐなのに全体(エンターテイメント)としてはうまくいっているようなせつなさ・ほろ苦さを私に連れてきます。
これだけの音数を棲み分けてミックスするのは奇跡に思えますが、私の脳みそに最初から最後まで幸福のスープを直接注ぎ続ける「満たされる感」がすごい。
“明日晴れるかな”。エンディング直前で嘘だろ、このタイミングで、この一言だけのために児童合唱。主題を強く強く印象づけます。紆余曲折あっても、最後はただこれひとことで結ぶ。未来への希望。自分の努力の及ぶ範囲と、森羅万象の真理・運命の向き。あらがえない命運と自己実現の調和が明日の天気であり、それが晴れであるかな、仮に晴れでなくてもなるようになるし受け入れるだけなのですが晴れたら最高……と、現実のすべてを受け入れる諦観と、かつ自分にとってすこしでも陽光がさしてほしいという希望を直接言うでもなくほのめかします。傑作だ。
青沼詩郎
『明日晴れるかな』(リマスター)を収録した桑田佳祐のベストアルバム『いつも何処かで』(2022)
シングル曲『明日晴れるかな』を収録した最初のベスト盤……というかライブDVDとCDのセット『桑田さんのお仕事 07/08 〜魅惑のAVマリアージュ〜』(2008)。ライブとオリジナル音源の両方の『明日晴れるかな』をマリアージュしたオーディオ・ヴィジュアルのお仕事に意欲的な桑田さん。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『明日晴れるかな(桑田佳祐の曲)ギター弾き語り』)