胸いっぱい サニーデイ・サービス
作詞・作曲:曽我部恵一。サニーデイ・サービスのアルバム『LOVE ALBUM』(2000)に収録。
サニーデイ・サービス 胸いっぱいを聴く
さわやかさで胸がいっぱいになります。
ほぼ全編にわたってダブリングのリードボーカル。間奏を経て帰ってきたところでシングルのリードボーカルになるのですが加工を帯びた音色になっています。
間奏のグモォォォという轟音がなんなのか。エレキギターのソロなのかなと思ったのですが、間奏を経てボーカルが復帰する瞬間の音のつながりに注意すると面白いことが起きています。ボーカルが歪んだような音色のまま“OH BABY”というヴァースの頭に接続しているように聴こえませんか。ひょっとしてこの直前の間奏は歪ませたエレキギターでなくボーカルだったのかな⁈ なんて想像までするのですが実際はよくわかりません。エレキギターなのかな。
スポ!ポス!と気持ちよく点を強調するスネアのサウンド。ベースはグモっと豪快なサウンドと動きで要所を引きしめつつ地盤を敷きます。
全編にわたってアコギのストロークがザンザンとバッサリしたキレと目を(耳を)覆う圧倒的な質量感で加熱していきます。左右にダブってありますが同じ演奏内容を2回別録りで繰り返して左右に振ったときの揺らぎというよりはタイトでピタっとしたシンクロ感があるのでダブリング(非常に短いタイムのディレイ)のエフェクトによって1つの演奏テイク(OKトラック)に対する処理でワイド感を演出したのかもしれません。
そう、ほぼ、アコギボーカルとベースとドラムのスリーピース編成が地盤になっているのです。私の一番憧れるし大好きなコンパクト編成です。アコギのスリーピースで永遠に曲をつくって歌って発表していたい……私のまぼろしの理想の音景です。いや、ある意味最たる現実か。
コーラスで字ハモのボーカル、すかさず「うーうーうー」で彩り。
ストリングスの音色のメロトロンっぽいサウンドがコーラスの響きを豊かにします。生のストリングスでなく加工を経た独特の、帯域のオチたアナログ感がメロトロンかな?と思わせる所以です。コンパクトなバンドのサウンドにマッチしていますね。
トリプレットのゲンミツな分割というよりは、嬉々としてはじけるバンドのグルーヴが快感です。サウンドに勢いがあります。爽やかな風が私を通り抜けます。
曽我部恵一さんの描くメロディと言葉の乗り方、リズムの当て方ってちょっと独特です。音楽好きに刺さるツボをおさえた音楽性ですしシンプルな編成でコードの響きとビートとメロディと匂いをいっぱい連れた言葉が謳歌するところが今この瞬間にすぐ真似したくなる! のですが、コマカイところの音韻の当て方や抑揚がちょっと独特。親しみも湧くのですが、立ち入れない独特のアイデンティティの領域がある……そういう人ってミュージシャンだろうとソングライターだろうとほかのなんであっても、他人をひきつけますよね。共感と神秘の振れ幅の海に私は神隠しされてしまうのです。
青沼詩郎
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『胸いっぱい』を収録したサニーデイ・サービスのアルバム『LOVE ALBUM』(2000)