ジャグってなに
ラヴィン・スプーンフルのことをジャグ・バンドと紹介する文を目にすることがしばしばあります。ジャグ・バンドってなに?
と検索するとジャグとは瓶の意味で、ビンとかスプーンとか洗濯板とかいった手作り楽器、というかもともと楽器ではないものを楽器として用いつつ、バンジョーとかギターとかハーモニカとかを使うようなスタイルのバンドをジャグ・バンドというそうです。
ざっくりラヴィン・スプーンフルを流し聴きしてみるにも(我ながら粗雑なおこないですが)、あまりかちゃかちゃしたような、非楽器特有のチープさが悪目立ちするようなこともこれといってないので私としてはそうした非楽器を前面に取り入れたバンドという印象はないのです。むしろすごく耳がよくて、サウンドが良いバンドな気がします。
非楽器を音楽に取り入れて効果的に扱うには耳がよくなけりゃ話になりません。普通に演奏すれば普通の音がする(最低限、楽音として扱える)のが楽器すなわちミュージカル・インストゥルメンツでしょうが、楽器の楽音と並んでも遜色ないパートとして効果的に扱うためにはそれこそ楽器を扱うからだの動きの知覚と、外に出て響く音のサイクルを把握して音楽、楽曲のなかにフィットするようにコントロールしなければなりません。
と、ラヴィン・スプーンフルの話をそれて非楽器の扱いの話に深くもぐりこんでしまいましたが、6月に歌いたくなるこじんまりしたかわいい曲をラヴィン・スプーンフルのレパートリーのなかに見つけました。
Rain On the Roof Lovin’ Spoonful 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:John Sebastian。Lovin’ Spoonfulのシングル、アルバム『Hums of the Lovin’ Spoonful』(1966)に収録。
Lovin’ Spoonful Rain On the Roof(アルバム『Hums of the Lovin’ Spoonful』収録、Remastered)を聴く
コンパクトで愛嬌のあるサウンド、歌。たとえば映画の主題歌やエンディング曲に対して挿入歌があったとしたら、この曲は絶対挿入歌のほうですよね。なんていう形容が褒め言葉になるのかわかりませんが、そんな、ライトに気軽に扱い、シーンに華を添えるのにお呼び立てしたくなるような曲想です。かるい。鳥か、風みたいに。
屋根、雨のモチーフが印象的で、6月にはよく雨がふる日本の気候においてもお呼び立てしたくなる曲想。雨に濡れてしまったふたりのお話でしょうか。濡れてしまって、かわくまでのひとときか。
雨は何かと思い出つくりな立て役者です。濡れるとか、傘がないとか、そういった逆境の種になるからです。
右側にリードボーカルが寄っているなぁと思うと、ダブルトラックで左にもユニゾンのパートがあらわれてバランスがとれます。同一人物の歌唱でしょうか。アコースティックのギター伴奏のみでじゅうぶん成立するおさまりのよさが、登場人物が小部屋ににげこんだひとときのよう。
タンバリンがちりんとなる。ドラムはスネアとハイハットだけか、キックがないみたいです。軽い。ベースの支えがあっても軽い質量感を損ねません。
途中で、まるでホルンみたいな音色がフロン、フロォ〜ン!とオブリガードします。ちょっとファットにゲインを上げたベースギターかバリトンギターみたいな楽器でホルンっぽいアプローチを試みたのか、あるいはメロトロンとかなのかなんの音色なのか事実は特定しかねますが、この音が鳴るとなんだかアルプス感漂います。
きらきらと乙女チックな謎の音色も漂ってきて少女漫画の画面の中を想起します。ビーチ・ボーイズの楽曲でもこれににたサウンドを聴いたことがある気がしますがこれもなんの音色なのか、特定する知識が私に足りない。
すっぽりと手におさまるかわいさがあるいっぽうで、こうしたサウンド面のちょっとした個性、気の利きようが彼らの魅力です。しかも肩肘張らない。カジュアルなのです。濡れた服が乾くのが惜しい。ずっとこのままでいたいです(風邪ひくよね)。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Rain on the Roof (song)、Hums of the Lovin’ Spoonful
参考歌詞サイト GENIUS>Rain on the Roof
『Rain On the Roof』を収録したLovin’ Spoonfulのアルバム『Hums of the Lovin’ Spoonful』(1966)