派手で金属的にギラつく倍音が印象的なイントロのあの音って何? 話題に尽きない快作。

スリル 布袋寅泰 曲の名義、発表の概要

作詞:森雪之丞、作曲:布袋寅泰。布袋寅泰のシングル(1995)、アルバム『King & Queen』(1996)に収録。

布袋寅泰 スリル(アルバム『King & Queen』収録)を聴く

ベビベビベイビベイビベイビベイビベイベェ……忘れようがないサビ。

圧倒的な存在感のイントロ。デシデシした衝突感と金属的なギラつくハデハデな倍音。この音、なんなのか? 安易に検索してしまう私。オーケストラ・ヒットというシンセの音色と出ます。

オーケストラ・ヒットとはその名の通り、打楽器、木管、金管、ハープ、ピアノ、弦楽器各音域が一斉に主音を鳴らした音をサンプリング、加工を経たものといえるでしょう。

ストラヴィンスキーの『火の鳥』より、『魔王カスチェイの凶悪な踊り冒頭の和音が元祖のサンプリング元で、

サンプリングした元祖さんはアフリカ・バンバータだといいます(参考Wikipedia>オーケストラル・ヒット)。曲は『Planet Rock』。

これがホテイさんのスリルのイントロの音色(の起源)か〜なるほど、ギラつく広い音域にわたる倍音のニュアンスを思うと非常に納得がいく一方、そのままではホテイさんのスリルのあのサウンドっぽくない。

私の身近にあるローランドの電子ピアノ(シンセ)に入っている音色で最も近いものを探ると、ユーロ・ヒットという音色が一番近かったです。

ユーロ・ビート系の音楽で用いられる、加工を経たオーケストラ・ヒット系の音色をサンプルして搭載したのがこのシンセの音色なのでしょう。

ザクザクと刻むエイトビートのまっすぐなエレキギターのダウンストローク。まっしぐらな印象が曲の主たるメッセージ、“俺のすべては おまえのものさ”を強調します。

F、A7、Dmを経てF7につながる流れをはじめ、和声進行の起伏、メリハリと、同音連打を基調にしたメロディの掛け合わせが素晴らしいし同音連打だけじゃない、ベビベビ……を唱え上げたあとは高らかに“俺のすべては おまえのものさ”で浮き上がるメロディの起伏も相まってスリルに満ちた展開。主題通り。

中間部ではシンセのふわーっとした音色とハープ風の音色で幻想的な雰囲気を演出、まっしぐらでエッジの強い曲の本体に清涼感と機微を与えます。

バタバタとヘリコプターのローターが空気を切り刻むみたいなリズム。左に右に布袋さんの声でベビベビ……の呪文が間断なくバトンリレー。

イントロを経てのアー系コーラス、それからサビのハーモニーのバックグラウンド系のボーカルは藤井フミヤさんの参加。まっしぐらなバンドの音、エッジーなシンセの音、ふわっとしたロマンチックなシンセの音、ヘリコプターみたいな効果的な音……楽曲を構成するサウンド要素が貪欲で豊かで、かつそれらが緻密に組み合わさって屈強で盤石な要塞が築かれている見事。

エレキギターソロをいれるなら、これほどにメロディックな旋律や豊かな和声の進行を基調にした曲想はむしろやりにくい。エレキギターソロの前半付近はオクターブ奏法の同音連打を多用し、和声進行のメリハリを上手に乗りこなしたうえで、エレキギターソロの終わり付近でドミナントの和音を長く引っ張るところでハーモニックで動きの多いエレキギターソロらしい華をみせる。この塩梅も巧み極まる采配です。

布袋さんの長身から繰り出される肉厚なボーカルの質量感、独特のみっちり詰まった歌声の質感と、乙女チックに細かく揺れるビブラート感やしゃくり上げに色気が差します。

この曲がリスナーに与えてくれる走り出したくなる躍動感の恩恵、そのスケール感はクラシックにもヒップホップにもまたがってそれでもまだ足りないでしょう。全部を括ってひとこと、ずばり主題の「スリル」の名の通り。感服です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>スリル (布袋寅泰の曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>スリル

布袋寅泰 公式サイトへのリンク 2025年4月16日、『GUITARHYTHM VIII』がリリース。シリーズは8作目に到達です。

『スリル』を収録した布袋寅泰のアルバム『King & Queen』(1996)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】神イントロからの疾走 スリル(布袋寅泰の曲)ギター弾き語り』)