小山田壮平が配信シングルをリリース。

テレビ東京ドラマ25『直ちゃんは小学三年生』エンディングテーマ。初回放送日が配信日でした。

一聴して感じるきらめき、絢爛さ。素敵です。

鉄琴のようなオルゴールのような金属的な芯を感じさせるトーンのメロディが間奏や歌のバックに入ります。ポルタメントする厚みのあるシンセ音がウィンウィンと唸ります。ストリングスのサンプリング音のような? オルガンのようなトーンも左のほうから……といった具合に、シンセ(鍵盤類?)の音作り豊か

小山田壮平のこの新しいテイストはRayonsをシンセサイザーに招いた結果でしょうか。Rayons中井雅子のソロ名義。映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『サヨナラまでの30分』など劇伴の実績ある音楽家で音大出身者。

映画『#ハンド全力』主題歌の『OH MY GOD』を聴いて私はアナログテープを用いたサンプリング楽器「メロトロン」を思い出しました。実際に曲にそれが入っているかわかりませんが、ギター・ベース・ドラムス・ボーカル以外の音を取り入れた小山田壮平サウンドが新鮮でした。

恋はマーブルの海へ』は『OH MY GOD』の豊かな音づくりの流れにうなずき、さらに先の景色の広がり、光彩に出会った印象です。

『OH MY GOD』含む2020年8月リリースのアルバム『THE TRAVELING LIFE』、同年10月の福岡DRUM LOGOSでの『LIVEWIRE presents OYAMADA SOHEI LIVE2020』などをサポートしたギタリストの濱野夏椰の音作りの幅が極めて広く、キーボードの類で鳴らした音もひょっとして彼のギターシンセ?か何かかしらと惑うほどです。『恋はマーブルの海へ』では右から聴こえるアルペジオギターや左に入るスライドギターを弾いているのでしょうか。小山田壮平との弾き分けは細部までは厳密にわかりかねますが、エレクトリックとアコースティックのコードストロークは小山田壮平本人でしょうかね。

イントロの印象的なフィルイン含むドラムスは久富奈良、ベースは我らが“鉄人”(私が勝手に心の中でする愛称です)・藤原寛

上にリンクした今回のツイートに添付されたコラージュ写真の左下が気になります。これは「部屋鳴り」を録っているのでしょうか。マイクロフォンが部屋の外側、カーテンに向けられているように見えます。レコーディング・ミキシングは佐藤雅彦氏。

https://www.youtube.com/channel/UCuKs3aMzO0-Z5XFdRTdWt-Q/community

小山田壮平YouTubeチャンネルが、弾き語りに動画に付すハッシュタグの紹介とともにコード譜を公開しています。「やっていいんだよ」と自ら門を開いている様子を嬉しく思いました。

カノン進行を思わせる鉄板のコード進行に、ⅢM(3度メージャー……あるいはⅢ7)など、小山田壮平の近作を思わせるコードが入っているのもミソです。このⅢM(Ⅲ7)はたとえば彼の近作でいうと『Kapachino』でも使われています。

歌詞は時間をおいては振り返りたくなる心象風景。鑑賞するほうが変化するとまた違った印象を抱くのではないでしょうか。聴く人を映す歌詞です。やわらかな距離感を思わせつつも、泣かないで 僕らのメロディーはやまない(『恋はマーブルの海へ』より、作詞・作曲:小山田壮平)ではこちらの胸に肉迫するようで、鑑賞者をミュージシャンシップの輪の中に含めて声をかけるようで勝手に胸熱。

ドラマの台本を読み、発想した曲だといいます。彼の作曲と、周りとの関わりがどんどん新しいレパートリーを生んで、それが気持ちいい大衆的な歌と新鮮なサウンドに昇華。広まっていく世界に瞳をまんまるく見開かせてくれる作品はまるで壮麗な風です。

映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は『恋はマーブルの海へ』はのシンセサウンドの伏線?

映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のRayonsによる劇伴、美しくやさしくはかなげで素敵でした。劇伴参加ミュージシャンにVoiceとしてPredawnの名がありました。劇中なかほど、登場人物の川辺みどり(筆名“グリーンリバー”)のエピソードが描かれる場面で印象的に用いられている曲がPredawnの歌唱を含んだトラックでしょう。川辺みどりが海辺を歩く、テーブルで筆を運び手紙を認めるなどする様子を、淡く子音の透き通るPredawnの歌唱(発声、“Voice”)が引き立てます。

Rayons『グリーンリバー』
Rayons『映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(オリジナル・サウンドトラック)』。1曲目に収録した『ナミヤ雑貨店のテーマ』にもPredawnのものを思われるVoice。輪廻を思わせる拍子で儚げに舞うようです。短くも響きの複雑さ、光陰の豊かなトラック。

小山田壮平『恋はマーブルの海へ』におけるRayonsの抜擢は、RayonsとPredawnの『ナミヤ雑貨店の奇蹟』における接点がつないだのかなと邪推しました。『恋はマーブルの海へ』を聴いて最初にこの記事を書いてからずっと後で『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を鑑賞しましたが、エンドロールを見て自分の中の鑑賞体験がつながりました。実際の経緯はわかりかねますが、通ずるものを持つ人はどこかでつながるものだなと思います。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』と楽曲『REBORN』

山下達郎による主題歌『REBORN』と、門脇麦演じるセリによる同曲の異バージョンが素敵で、楽曲を先に聴いてから映画に関心を抱き鑑賞したのが経緯でした。

セリ(門脇麦)による『REBORN』を聴くに、セリが実在したら実直で不器用、裏表がなく公私が一体となった、良くも悪くも不器用で感化されやすく感性の高い気質の歌手・ソングライターであるのを想像します。波の最も高いところで感情と表現の狭間を漂うような繊細な門脇麦のボーカルが魅力的です。ラテンパーカスが朴訥とした響きで秩序を敷き、アコギとピアノが朝まで談義している。ベーシストは勝手に飲み進めていて顔色ひとつ変えもしない……みたいな情景を想像します。

『REBORN』はセリの弟の命を火事現場から救い出し落命する、林遣都演じる“魚屋ミュージシャン”の松岡克郎がメロディを作曲したものとされています。そのメロディは非和声音が印象的で、ただならぬ洗練をたずさえています。劇中で松岡克郎(林遣都)が、「ナミヤ雑貨店」の閉じたシャッターに背中を預けて座り込み、クロマティック・ハーモニカの生演奏で『REBORN』の旋律を奏でるシーンは聴くものをうっとりさせるハイライトのひとつです。

松岡克郎の音楽活動は、彼の存命中に世間における評価に恵まれるとは決していえないものですが、音楽が人を渡って継がれる命に似たものであると私に諭します。

弟を松岡に救われる児童期のセリは、火災に遭う前に松岡がギターの弾き語りでパフォーマンスした『REBORN』を一聴して覚えてしまいます。メロディのみだった作品にセリが作詞し、ライブステージで成長した姿のセリ(門脇麦)らが『REBORN』をパフォーマンスするシーンも、ヒトは伝え合って命を共有する生き物であるという『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の主題を思わせます。現実の世界においては『REBORN』は山下達郎による作詞・作曲で、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のための書き下ろし作品です。

山下達郎『REBORN』。解像度が高く、テクニカルです。金属のような冷やっこい質感と造形美を感じます。ベルのアタックにストリングスのサスティンをミックスしたようなシンセサイザーのフワっとしたトーンが伴奏の中心で、物語のSF的な側面を表現して思えます。生演奏主体(というか完全生演奏でしょう)のセリversionと素晴らしい対バンを成しています。楽曲中盤に登場するオクターブ違いの女声パート?はどなたの演奏なのでしょう。一人でいかなる音域も演じてしまう達郎さんのパフォーマンスを思うとわかりません。いずれにしてもメインボーカルとキャラクターが違い、人物が交叉する物語、あるいは永遠にすれ違うような非情なせつなさを思わせます。エンディングのしっかりと尺をとったギターソロは映画音楽仕様という感じで、終わりなく走り続けるのを課される、命ある者の背負う厳しい現実、過酷さを思わせる確かな演奏です。

と、『恋はマーブルの海へ』から『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、山下達郎『REBORN』と話が移ろいました。これも音楽、命の連なりの本質なのだと拙く括らせてください。

青沼詩郎

小山田壮平 スピードスターサイトへのリンク

Rayons 公式サイトへのリンク2022年リリースのPredawnのアルバム『The Gaze』の収録曲『Canopus』『The Bell』をRayonsがプロデュース・演奏と発表しています。

Spotifyリンク:Predawn『Canopus』。ピアノのストロークにきらびやかなシンセサイザーが効果を添えます。やわらかなギターが添い、ストリングスが伸び、ボーカルにハーモニーパートが加わります。チク、タク、と時計の秒針ふうの音がリズムを演出。時の経過を思わせます。静謐な夜空の情景を勝手ながら感じます。感情がそちらへ吸い寄せられる思いです。
Spotifyリンク:Predawn『The Bell』。適切な質量のバンドの肉声を客観しつつ、彩りと奥行きを与えるRayonsのプロデュースワークを感じます。アコースティックギターとバンド主体の伴奏への冒頭のイントロデュースが印象的です。オルガンが揺らめき、ストリングスが平静に協働します。

Wikipedia>ナミヤ雑貨店の奇蹟

ナミヤ雑貨店の奇蹟 公式サイトへのリンク

小山田壮平『恋はマーブルの海へ』(2021)

映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(公開:2017年)

映画の原作となった東野圭吾の小説『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(単行本の発売:2012年)

ご笑覧ください 拙演

青沼詩郎Facebookより

“小山田壮平『恋はマーブルの海へ』。
新年を迎えて配信したての曲。テレビ東京ドラマ25『直ちゃんは小学三年生』エンディングテーマ。
昨年8月リリースのアルバム『THE TRAVELING LIFE』、10月の福岡DRUM LOGOSでの『LIVEWIRE presents OYAMADA SOHEI LIVE2020』などをサポートした近年の小山田壮平布陣の面々、藤原寛(ベース)、濱野夏椰(ギター)、久富奈良(ドラムス)に加えてシンセサイザーのRayonsが新しい。
Rayonsは中井雅子のソロ名義。映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『サヨナラまでの30分』の劇伴音楽など仕事してらっしゃる。
小山田壮平は10月のライブでもピアニスト宮崎真利子と共演していたし、この流れは「ある」なと思う。彼の音楽がどんどん広がっていきます。
……という新曲を弾き語りしてみた拙演、ご笑覧ください。”