混声バンドで描く大衆文学
歪んだギターの折り重なる響きのなかを、平静な情緒をこさえた男女混声のリードボーカルが歌いわけたりオクターブを重ねたりします。1番と2番あるいは特定のフレーズをピックアップしてリードボーカルを変えることにより、その部分を歌う主体(人格)を分けて(あるいはオクターブユニゾンならば人格を重ね合わせにして)演出することができます。SUPERCARのみに許された技法では決してないでしょうけれど、自分たちの編成の強みを活かして魅了したグループの筆頭だと感じます。
感情が平静なボーカルによって、歌詞が描く心象の世界との一定の距離が確保されます。客観の心境ですね。その余白、それからコード進行のシンプルさ、あまり極端な技術や身体能力がなくても歌える落ち着きのある声域やボーカルメロディラインやバンドのベーシック演奏も相まって、コピバンにも優しいです。
歌詞は平易で観念的な表現中心で綴られるので、そこも、より多くのリスナーが自己投影しやすい一因です。大衆歌、ポップソングとして必須の資質だと思います。
“「今はどうしても言葉につまるから – ヒキョウなだけでしょう? それで大人になれるならつらいだけだよ….。」”(Supercar『Lucky』より、作詞:石渡淳治)
平易な語彙によって練られた歌詞ではあるのですが、心の注意を惹きつける私のお気に入りのラインが上記の部分です。「ヒキョウ」の一語に意外性と、踏み込みの強さがあります。音楽表現はここまで述べたように、粗野なものではなくて悠然と空中を漂うような優雅さがありますが、曲に宿った人格が過去に経験した数多の記憶は悲喜交々の浮き沈みあるドラマそのものであろうことを、音楽的かつ文学的な余白が鑑賞者に想像させるのです。ボーカルミュージックでありバンドであるという媒体を通して、時代にふさわしい大衆文学を成立させたところがSupercarの絶大な功労だと思います。……あなたが感じるSupercarの魅力を言語化すると果たしてどうでしょうか?
Lucky Supercar 曲の名義、発表の概要
作詞:石渡淳治、作曲:中村弘二。Supercarのシングル(1997)、アルバム『スリーアウトチェンジ』(1998)に収録。
Supercar Lucky(アルバム『スリーアウトチェンジ』収録)を聴く
リスナーが浸れる、あるいは己の記憶の投影に没入できる、音と言葉による空間演出におぞましいものがあります。
一本目のギターがきこえはじめる……記憶のなかで鳴っているような、若干の距離があります。2本目のリードトーンのギターが鳴り始める……こいつの歪みが極めてつよく、鋭いです。距離も目の前で鳴っているように近いです。
ドラムの臨場感、スネアの轟音が幅を効かせる余韻のタイムが快感。ギターで8分割をずっと打ち出すとうるさくなるでしょうが、ベースがそれをにないます。ドラムのキックはスネアと絡めて8分割でド・ド・タ・ド・ド・ド・タ・ドみたく密に余白を埋めるフレーズもみられます。ギターやボーカルが気持ちよく漂うことができるのは、これらベースやドラムによって地盤がみっちりと引き締まっているおかげに思えます。
右のほうの定位にはアコギも入ってきます。エレキギターが終始開放的なトーン・フレーズなので、わしゃわしゃと細かい分割のニュアンスを出すためにこのアコギの必然性が腑に落ちます。
ギター類の開放的な音色、倍音豊かな質感を活かすためにフラットチューニングにしているのかもしれません。原曲E♭キーだと思うので、竿物楽器を半音下げにするとDコードの解放ポジションが有効に(友好に……)なります。
ボーカルは常にダブリングです。na na naといったカウンター・オブリも丁寧にダブっている感じがします。ダブリングのトラックによるうねり・ゆらぎがしゅわしゅわと清涼飲料水がはじけるような浮遊感を演出します。輪郭にも幅がでます。あまりビチャビチャのリバーブくささがないのに、心の空間をスタジアムやドーム規模にする広さを感じます。ステレオトラックのなかの空間構築が卓越しています。
Ⅰ、Ⅳ、Ⅵm、Ⅴの和音だけで成立するヴァース、ブリッジ、コーラスですが、1コーラス目終わりの間奏でⅦ♭コードなども用いて、リズムの移勢のキメも含めて景観を動かす工夫がなされています。あくまで楽曲の好ましいシンプルさや、最終的な悠然とした余白の審美を損ねない塩梅で「転」を演出していて絶妙です。
「ラッキー」と主題にし、歌詞のなかでもその単語がつぶやかれますが、あんまりこれ幸いだと思っている感じがしません。諦観をおもわせます。ラッキーとは、そもそもその程度の観念なのかもしれません。そのラッキーが身に起こっても、「ああ。そうですか」程度のこと。心を地平線のように寛く保つことは、悲しみへの耐性になります。一方、もっと喜べよ!なんて身近な友達や家族に怒られたりなんかしてね。ぬか喜びほどこわいものもないじゃない?
青沼詩郎
参考Wikipedia>Lucky (SUPERCARの曲)、スリーアウトチェンジ
デビュー10周年を記念したリマスター+秘蔵音源収録バージョンの『スリーアウトチェンジ』(2007)があります。
通常盤
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】混声バンドで描く大衆文学『Lucky(SUPERCARの曲)』ピアノ弾き語り』)