希望の心持ち

ファーストアルバム『断絶』収録曲。フックがありすぎてフックの定義がわからなくなるような曲に満ちたアルバムのなかでは、本曲はピュアでロマンチックで美しい気がします。

天候に身を委ね、その天気であらばこうである……天気Aであらば我はB、みたいな構文。『傘がない』などの痛烈なまでの個人性(ときに、リスナーの心にそこかい!というツッコミを沸き起こらせるような……)と比較すると本曲はいくぶん粘着性や臭気を薄めた印象です。

天候に抗いようのない個人の小ささをわらっているのかなと思いますがそこまでの強烈な批判性を感じるわけでもありません。ストリングスやアコギのアルペジオが儚く、女性的な印象のサウンドです。本曲があるおかげで、くせもの揃いのアルバムのバランスをとっているのかなとも思います。原曲の編曲は星勝さんによります。

実際の天気がどんなものであっても、明日が晴れならば、という希望的な心持ちを己に提示するやわらぎ、なごみをくれます。

もしも明日が晴れなら 井上陽水 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:井上陽水。井上陽水のアルバム『断絶』(1972)に収録。

井上陽水 もしも明日が晴れなら(アルバム『断絶』収録)を聴く

8小節で1単位の楽節を三つ連ね、24小節に2小節程度の尾ひれがついた大楽節としたワンコーラスを連ねる極めてシンプルな構造を活かして、ワンコーラスごとにサウンドスケープを変化させ天候が喚起する映像に起伏をつけているのが非常に巧みな編曲です。

1番はほとんどアコースティックギターの音色がベース(低音位)も和声も支配します。1拍ごとにストロークし、上向きの目線を思わせるうろつくような伴奏パターンが歌詞にある「野を歩こう」を思わせます。アコギの音色が実に深く、アコースティックのダブルベースの音色かと聴き紛うウットリ感に包まれる私。ストリングスがダイナミクスの変化で迫ってはすぅっと抜けていく音形を繰り返す毎に身も心も浄化される気分になります。

2番はアコギが1小節につき6つの上声を連ね、間断なくふりそそぐ雨のよう。キックが1拍につき3つの分割にダイナミクスをつけたような走り出しそうなそわそわ感を演出します。ストリングスの質感もみっちりしっかりしてきます。地面を掘り下げるベースがずんと深く、雨水で澱んだ地面を思わせます。

3番は「明日 空が晴れてたら」の情景におあつらえ向き、飛び回るハープの音色はまさに光子のダンス。輝かしく明るく、今日までの雨粒が太陽を乱反射するまばゆさを演出します。井上陽水さんの歌唱は妖怪めいたオカルト感と乙女の可憐さを併せ持ちます。思い出したようにフィルインを派手目にぶちかますドラムを合図に夢心地はフレーミングされ、そのまま無限フィードバックをして卒倒せんばかりの危なっかしいディレイの処理で謎かけをしてあすの天気をブラックボックスに仕舞ってしまうイケズ。

青沼詩郎

参考Wikipedia>断絶 (アルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>もしも明日が晴れなら

井上陽水 オフィシャルサイト [ Yosui Inoue Official Site ]へのリンク

『もしも明日が晴れなら』を収録した井上陽水のアルバム『断絶』(1972)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『もしも明日が晴れなら(井上陽水の曲)希望の心持ち【ギター弾き語り・寸評つき】』)