評価承認への道のり
『太陽がくれた季節』のヒット曲を要するグループ:青い三角定規のレパートリーです。
青春像がステレオタイプ(紋切り型)なのがおかしみがあります。紋切り型の青春にも大雑把な分類はいろいろ許される気がしますが、ややはみ出しものがたどりがちなタイプの青春像であろうことが「長めのジーパンひきずって」や「ギター背中に自転車旅行」などいった表現から勝手ながらレッテルを付したくなる私です(含む共感)。みずから青春をネタにしにいっているような、コミカルでくすりと笑わせる「含み」を凛としたみずみずしい歌声で表現します。
勲章を欲しない人はそもそも勲章という名詞を持ち出して自己主張しないでしょう。眼中にないはず。それだけならず、「なんか」とつけています。実はソイツの存在、その対象を多大に意識している人の口ぶりが「なんか」ではないでしょうか。勲章の存在を口にし、「青空見上げて涙ぐみ」です。実は盛大に勲章が欲しかった、認めて・評価してほしかった人の悔しみを労い、なだめ、なぐさめを試みるのが本曲のおかしみでしょう。
「ギター背中に」の描き方が青春の放浪者然としていてコミカル。どこにも行けないでやきもきする、という境界人間の心理もあるでしょうが、ギター背中に自転車旅行をするという孤独(とまでは描いていません。複数で自転車旅行、もあるかもしれませんが……)を謳歌する程度の行動力を有し、「勲章なんかほしくない」と誰に対してなのか、あるいは自分の心のなかに表明する程度の「かまってちゃん」ぶる人格を有している様態がほっとけない愛嬌につながってもいます。
五つの赤い風船『遠い世界に』、ザ・ブロードサイド・フォー『若者たち』、『戦争を知らない子供たち』などのカバー曲も含んだ、本曲収録のアルバム。彼らの代表曲といえよう『太陽がくれた季節』以外の青い三角定規のレパートリーを知るのもまたギター背中の自転車旅行みたいなものだと思えます。
勲章なんかほしくない 青い三角定規 曲の名義、発表の概要
作詞:岡田冨美子、作曲:いずみたく。青い三角定規のシングル、アルバム『君と僕らと青春を/勲章なんかほしくない』(1972)に収録。
青い三角定規 勲章なんかほしくない(アルバム『君と僕らと青春を/勲章なんかほしくない』収録)を聴く
調子のはずれたような音程のうねるトイピアノ、カズー(くわえて歌ってフィルムがビコビコ共鳴する小物楽器)の重ね合わせがサウンドのアクセント。左にはオートハープでしょうか、ちゃらーんというきらびやかなアルペジオ・グリッサンドが映えます。右側アコギが対にになっており、スリーフィンガーっぽい語彙や、2度の音程をずり上げるような音形が青春にもだえてもぞもぞするみたいな動きに思えます。
ペカンとコンガのような響きもサウンドの個性。本来ならドラムセットのタムタムをセッティングする場所にコンガを組み込んだみたいな音使い・フレージングを感じます。右端ではチキチキとタンバリンが鳴る。真ん中を支えるベースのサウンドは2小節単位のリズム形がおおらかです。中央値をはずれた個性の持ち主があつまったサークルみたい。音にかなり個性がある編曲です。それらがかけ合わさって調和しています。
サビ(Bメロセクション)の高揚を男声が歌い、A’に回帰する「のんびりのびのびやるほうが 人間らしくていいのさ」を女声が落ち着いた声域のトーンで歌いきっちり全終止でおさめます。そしてこの「のんびりのびのび」……のフレーズの繰り返しのさなかフェードアウトの処理で青春の旅が遠ざかっていきます。いつから自分は境界人間じゃなくなったのだろう。グラデーションの人生の端境を思います。いまこの瞬間に大人になった!という実感は、20歳とか30歳とか40歳とか50歳とか(以降延々)、なにかきりのよい単位にさしかかったときに改めて感じる、こみあげる、心ににじみひろがり覆い尽くすようなことももちろんあるでしょうが、基本的には1秒1時間1日1ヶ月1年10年……と刻々と小さな単位の移ろいの蓄積によって醸されるものです。
そうした蓄積がなす、大きな醸成を視野に入れて浮かべるように、落ち着いた女声リードの「のんびりのびのび」……のフレーズが繰り返されてフェードアウトする意匠。「人間らしくていい」といいますが、ここでいう「人間」がすなわち端境・境界人間をおえた実感に至るいつの日かの「大人になった自分」の象徴のように思えます。人間は一日にしてならず、しかし人生は刹那です。
青沼詩郎
『勲章なんかほしくない』を収録した青い三角定規のアルバム『君と僕らと青春を/勲章なんかほしくない』(1972)