ふたりで一緒に片付けしたらいい

新沼謙治さんのセカンドシングル・セカンドアルバム収録曲。スタ誕:スター誕生!出身者でもあり、ピンク・レディーも新沼さんと同じくらいの年代のスタ誕出身者のようです。

嫁という観念が前時代的でもありますが、現在でも単に男性の配偶者が女性パートナーを指して「嫁が……」などと指すことがあるでしょう。「桜色した君が欲しいよ」との歌詞など、どこか「初々しいものを美徳とする価値観」が薫りもしますがそれも無邪気というかこの楽曲が世に出た当時なりに無垢な想いからそう表現している気がします。現代においては結婚がゴールでありみんながみんな目指すのが主流というのでももちろんないですし、結婚に至る年齢も全体に遅くなっている:高齢化している向きもあるかもしれません。男性側のファミリー・ネームに女性側が合わせるという条件が当てはまってさえいれば嫁と呼んだとしても、男性側の家族2〜3世代が一緒に住んでいる文字通り物理的な「家」にパートナーとなる女性が移住してくるというケースはもはや絶滅危惧種的に少ないかもしれません。

その楽曲が生まれる背景になっている価値観が、いまこの瞬間を過ごす私の価値観と異なっているほどにその楽曲の存在が気になる図式が私にはあります。「日の暮れの公園で……」と歌うところでトランペットが茜空を過ってくる。「たんぽぽを指にはめ喜んでいた……」「真夜中のスナックで水割りなめて」……記号的な情景描写がコミカルでおかしみを生ずるのも現代の私の価値観との乖離に起因する部分も少なからずあるでしょう。

新沼謙治さんのかがやきの強い艶のある歌声がリスナーの意識の「つべこべ」をすべてどんぶり勘定にしてかっさらっていきます。サビの「嫁に、嫁にこないか」に入るときにブレスや休符をとらずにつながるアーティキュレーションが主題であり本意である「嫁に来ないか」のメッセージに緊張感とハリをもたらします。

2コーラス目に「傾いたこの部屋も綺麗に片付ける 嫁に、嫁に来ないか」の歌詞フレーズですが、最初私は「片付けをする男になってみせるからどうか嫁に来てくれよ」との意味かと受け取ったのですが、「嫁に……」へのボーカルのつながりを考慮すると「綺麗に片付けをする嫁」に来てくれないか(あくまで片付けをするのは男性ではなく“嫁”)との意味にもとらえられるつながり方をしているなと気づいてしまい失笑(いえ、笑を得た?)してしまいました。つっこみどころがあるのも真にその楽曲の魅力だと思います。

嫁に来ないか 新沼謙治 曲の名義、発表の概要

作詞:阿久悠、作曲:川口真。新沼謙治のシングル、アルバム『望郷詩集 新沼謙治Ⅱ』(1976)に収録。

新沼謙治 嫁に来ないか(アルバム『望郷詩集 新沼謙治Ⅱ』収録)を聴く

新沼謙治さんの歌唱、それからベースやドラムスなどのフォー・リズムが比較的ドライな音像。湿らすことでごまかさないタイトさ。新沼さんに「演歌」のジャンルづけを付すのも陳腐な気もしますが、ダブリングやハーモニーを加えることのたい単一のリードボーカルの描線で、ぞんぶんに、何セントくらい音程が揺らいでいるのだろう?と関心がわくくらいに振幅の強いビブラートではっきりとした声の輪郭で魅せます。ベースとドラムのディヴィジョンが細かく精密。6/8拍子で8分音符一つひとつをさらに2分割したような「ちくちくちく・ちくちくちく」……という解像度が嬉々としてあなたを嫁に迎えようという未来に向かう明るいビジョンとまかせろ!(からだひとつで来い!)という頼もしさを表現します。

比較的ドライな音像に対してストリングスが広がりと奥行きと湿り気をもたらします。左に高めの音域、右に低めの音域のヴァイオリン族が広がって感じます。一般的なオケの配置を客席側からみたような定位感です。トランペットが奥のほうからただようBセクションで、エンディングではそのトランペットがぐっと近くなります。フェーダーで演出を分けているのでしょうか。チラリとエレピとグロッケンが重なったようなサウンドが輝きと日暮れどきのせつなさを薫らせます。

幸せという言葉ぼくにはきざだけれど……男性が欲や理想をコトバにすることを恥じらう価値観がここにも無理に見出そうとすれば感じられるかもしれません。おとこは黙って……みたいな社会背景でしょうか。私が思うだけ? でも幸せは誰しもが等しく追求する権利があるし、その権利が遺憾無く行使できる社会であるべきです。

青沼詩郎

新沼謙治オフィシャルサイトへのリンク

参考Wikipedia>嫁に来ないか

参考歌詞サイト 歌ネット>嫁に来ないか

『嫁に来ないか』を収録したアルバム『望郷詩集 新沼謙治Ⅱ』(1976)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『嫁に来ないか(新沼謙治の曲)ふたりで一緒に片付けしたらいい【ギター弾き語り・寸評つき】』)