風街のしゅしゅ・しゅー
しゅしゅ・しゅー……の清音が街の辻を吹き抜ける風のよう。ナンシーの歌声が甘酸っぱくも芯の強い感じもあります。トロンボーンでしょうか、金管のふくよかなサウンドが哀愁めいています。パキパキっとはずむブリッジミュートのエレキギター。ハープシコードの音色がサウンドのアクセント。
ソングライターのリー・ヘイズルウッドは『にくい貴方(These Boots Are Made for Walkin’)』でもナンシーへの楽曲提供の例があります。
Sugar Townの主題が謎。のどかなのですが意識が空に飛んで溶けているみたいな、何を言いたいのかよくわからん人のようで浮ついています。含みに富んでいるのです。何かを言い切りたいふうでもない。何かの痛烈な風刺なのかもしれないし暗喩・暗示なのかもしれない。悲喜交々、光あれば影あり。でも最終的にはみんななるようになるさ。なるようにしかならねぇさ。どうせそうならハッピー!の烙印を自分で押してしまえ!という力技を感じます。
音楽でも映画でも漫画でもいろんな媒体のエンターテイミント作品の最近は、「こういうふうにあじわってくれて大丈夫ですよ!」たとえば泣いてください、たとえば笑ってください……と、楽しみ方といいますか、その作品が導くフィーリングが一方向に誘導されている、あらかじめ方向付けがなされているような窮屈さを覚えませんか。私はときにそういうことがあります。
他方、本曲Sugar Townはどうでしょう。歌詞に意味することがないわけではもちろんないでしょうが、だから何さ? おれはおれだし君は君だろ? と音楽を通して諦観のほのめかされているような気分になるのです。その塩梅が私には気持ちいい。かえってこちらを尊重してもらえているように思えるし、私もあなたのことを尊重できる、そんな気分にさせます。
主題のSugar Townは、角砂糖をコロコロ転がしたり並べたりすると街のビルの並んだ様子に見える、その表現だとする解釈があるといいます。あるいは甘い快楽……ドラッグなんかの暗喩だったりもするのでしょうか。私が勝手に想像する余地があります。
Sugar Town Nancy Sinatra 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lee Hazlewood。Nancy Sinatraのシングル、アルバム『Sugar』(1966)に収録。
Nancy Sinatra Sugar Town(アルバム『Sugar』収録)を聴く
私の聴いた配信版のミックス・マスタリングの個性なのか……右側にオケが寄っています。ポキポキとはずむように、しかしまるでマリンバのように余韻の深いエレキギターのブリッジミュート。ベースギターも右寄りでしょうか。ドラムも右寄りで中央奥にむかってドラムの余韻が残るような印象。でナンシーの歌声が相対的に左寄りに感じますがせいぜい中央くらい、曲が進むとトロンボーン?マイルドな音色の金管楽器がダブルで左寄りに入ってきます。この金管のハーモニーが恒常化してようやく左右のバランスがとれます。
しゅしゅ・しゅーのところでナンシーの声のハーモニー。金管楽器も好バランスでハモります。とちゅうでフっと鼻でわらいとばすようなナンシーの歌唱の軽妙さ。ドラムは金物の影がなくて倍音でほかの楽器を邪魔することがなくピタっと音の輪郭自体はドライ。全体にアナログくさいあたたかみがあってナンシーの歌声とあいまって耳心地が至福です。
砂糖の街……刹那的に享楽を得ることのできた産業発展のシロモノの比喩なのか。
青沼詩郎
『Sugar Town』を収録したNancy Sinatraのアルバム『Sugar』(1966)