目が合った瞬間に伝えよ

『こっちを向いて』の同名でたどる懐かしい曲を……キャンディーズのカバーで私は先に本曲を知りました。GSバンドの王道、ザ・タイガースにも同名異曲があります。

ザ・ピーナッツの本曲は可愛げがあります。カレが機嫌をよくしたりあるいは芳しくない機嫌をみせたりするのは、パートナーのちょっとした態度や気遣い、サービス精神の分量・有無が握るものでしょう。

1345の循環のコード進行でめぐる恒常性をポキポキとした歯触りのかるいエレキギターや群衆を思わせるバックグラウンドボーカルがさりげなく豪華に彩ります。片側の定位に双子姉妹のおひとりを、定位をズラしてもう一方をとリードボーカルが定位分けされた「ピーナッツ仕様」のサウンドになっています。リードをとるラインを分けたり、ユニゾンしたりして聴く人が聴けば姉妹のどちらが歌っているのか判別できるのでしょうがお二人の声が重なり調和することで完全無双のザ・ピーナッツのサウンドたりうるのです。

相棒が機嫌をそこねている本当の理由は本人にしかわかりません。想像を絶して陳腐だったり軽微なことを発端に、その発端の軽微さとは対照・対極的に盛大に怒ったりふてくされたりしている可能性があります。そんな些細なきっかけから来る盛大なフキゲン・不調和を払拭する(予防する)のが軽微な心遣いや愛情表現ひとつだったりするので、その費用対効果は絶大なものがあるでしょう。恋愛をはじめ人間関係のおかしみであり皮肉なところでもあります。ここで述べたこともすべて私自身へのブーメランでしょう。

「こっちを向いて」を言わずに済む相手がこっちを向いている一瞬のタイミングを逃さずに好意や感謝や敬意を簡潔に確実に、小出しにして伝えることが恒常的で安定した線の太い円満や団円の秘訣なのかもしれません。ラブリーかつ真に教育的な楽曲ではありませんか。

こっちを向いて ザ・ピーナッツ 曲の名義、発表の概要

作詞:秋元近史、作曲:宮川泰。ザ・ピーナッツのシングル『東京たそがれ(ウナ・セラ・ディ東京)』のB面、アルバム『バカンスだよ ピーナッツ«ピーナッツのザ・ヒット・パレード»第4集』(1963)に収録。

ザ・ピーナッツ こっちを向いて(配信『バカンスだよ ピーナッツ«ピーナッツのザ・ヒット・パレード»第4集』収録)を聴く

おふたりの歌声はビブラートの振幅まで合っている気がします。波形解析したら面白いんじゃないでしょうか。そこまで私はしてませんが一聴しただけでそんな仮説を抱かせる息、ニュアンスの協調の奇蹟のたまものを思わせるエミ・ユミさん姉妹の歌声です。

テンポが私の記憶に格納された本曲の印象を超えて軽快。ドラムスはスティックでなくブラシでプレイしたパサパサと軽いタッチを感じますがパコンとアクセントするときは芯が太い。非常にニュアンスに富んだドラムの名演です。ドラムスにまろやかなきらめきを添える奥まったバランスでタンバリンがレイヤー。ベースはコントラバスベースの音色がずんと気持ちよく伸びます。

右側定位に「ye ye」とか「ya ya」といった発声の男声コーラス。彼女の一挙手一投足に眉尻や眉頭を動かして機嫌を揺さぶられている「彼ら」の群像を思わせます。右側の男声を脇役の中心に、左定位に女声のコーラスもあらわれます。女声コーラスと近い定位にヴァイオリン族の高音域があらわれ、非常に指捌きかろやかなプレイを添えます。妖精のように自在で幻想的なまでにかろやかに弾みます。

恋愛を題材にしたかるい曲想なんですが、そんな人生のワンシーンから拾えるものはいち好いた惚れたの痴話ごとを超越したミッションであり、そこへのコンタクトを誘うのがピーナッツらの魅せる達者で洗練・訓練されたサウンドの技巧なのだと思います。

相手(対象)の意識の波長がこちらと合っている瞬間に的を射る言動をかろやかに送り込む弓矢の使い手でありたいもの。

“怒らないで ひとこと好きと言ってほしかっただけなの”(『こっちを向いて』より、作詞:秋元近史)

とのラインにみるように主人公もまた、弓矢使いとしていつでも完璧なわけではないようです。あの一瞬が何かの言動や行動の発動にとって、本当はいちばんのタイミングだったんだろうと気づく後悔や反省も未来の資源にするのみ。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ザ・ピーナッツ

ザ・ピーナッツ | キングレコードオフィシャルサイトへのリンク

参考歌詞サイト 歌ネット>こっちを向いて

『こっちを向いて』を収録した『バカンスだよ ピーナッツ«ピーナッツのザ・ヒット・パレード»第4集』(1963)