必至の理

プラターズが歌って有名にしたスタンダード。元は1933年、ミュージカル『ロバータ』のために書かれた曲。1935年に映画化、フレッド・アステア、ジンジャー・ロジャースが出演しています。

煙が目にしみるの意味の多層が秀逸。愛が燃えている最中、煙がもんもんたちこめて、盲目になるという意味がまず一つ。もう一つは、愛が燃え尽きたときにたちのぼる煙が目にしみる……つまり、失恋の痛みの体感・心情を煙が目にしみると喩えている感覚が秀逸なのです。愛が燃えている最中にも、燃え尽きたそのときにも、私たちは結局煙からの干渉を受け続けるのでしょう。厄介ですが切り離せない副次効果であり必然・必至の理(ことわり)です。

メロディも極めてドラマティック。エンディングに至っては3度の跳躍を4回重ねる。ファから始まってオクターブを越えて9度上のソまで到達します。ここに至る前だってドラマティックでセンチメンタルなメロディや和製展開の豊かさを含んでいるのに。演奏者の技量を問われる圧巻の、ピークエンド型の構築、熱量の設計がブラボーでミュージカル由来の楽曲らしい特長だといえます。

途中の大胆な転調、プラターズバージョンを基準にしていえば、E♭メージャーからC♭(ナチュラルB)にセクションの推移とともに転調。愛が人を惑わせ、愛が人を変え、愛が人の心の故郷をわからなくさせる、みたいな気分になります。ここでプラターズバージョンはストリングスのリズムが「ボレロ」そっくりになります。どんな意図?!

ミュージカルが公開された同1933年の最初のレコード録音とされるのがガートルード・ニールセン。翌年のポール・ホワイトマンの録音がセールス的に芳しかったようです。以来、数多の実演家にジャズなど多様な音楽スタイルにおいても親しまれてきたスタンダードの名にふさわしいレパートリーではないでしょうか。山下達郎さんのカバーもあるようです。

Smoke Gets In Your Eyes 曲の名義、発表の概要

作詞:Otto Harbach、作曲:Jerome Kern。1933年、ミュージカル『ロバータ』のために書かれた。有名な実演(カバー)にThe Platters(シングル、1958年)がある。

The Platters Smoke Gets In Your Eyes(『Remember When?』収録)を聴く

オケがゴージャス。まずハープがぽろぽろと優雅です。6弦のギターなどでも再現できそうなアルペジオを添わせていたかとおもえばハープらしい絢爛なグリッサンドもよぎります。下行音形の音域の幅広なアルペジオはやはりハープでないと得られないサウンドでしょう。パスっとみじかくブラシで叩いた感じのスネアがアクセンント。あまり「ドラムキット」的な語彙を感じません。ドラムセットは使ってなくてオケのパーカスパートだけで済んでしまっているのでしょうか。ティンパニまで入って、エンディングの圧巻のボーカルの上行音形(ラストの“Smoke get in your eyes”)の付近を劇的に盛り上げます。

リードボーカルがすこし右寄り、ハーモニーのボーカルが左寄りに相対的に感じます。木管楽器なのかボーカル群の口をとじたハミングなのか聴き紛うサウンドが私の耳を福ごこちで包みます。

リードボーカルの子音の切れ際まで麗しく美しい。エンディングはもしライブだったら盛り上がってしまってこれの2〜3倍ロングトーンを引っ張ってくれてもいいんじゃないかと妄想を誘いますがシュっと潔く広げきった音を収束させます。名曲の名演です。

映画ロバータを観た

楽曲『Smoke Gets In Your Eyes』が登場したミュージカル『ロバータ』の映画バージョンがあるとのことで観られないか検索したらなんとAmazon Primeにありましたので見ました(2026年夏の終わり頃時点の話)。

フレッド・アステアの華麗なダンス(タップダンス含む)シーンが随所にあり、ピアノも弾くわ歌うわで彼の多彩ぶりがうかがえました。物語は洋服をつくって売る生産者・販売者の屋号「ロバータ」を中心にした群像劇風です。たくさんの音声をトラック別に合成する技術がまだなかったのか、別録りした音楽が流れるシーンではその映像に付随する生の音声が完全にオフになって音楽のトラックだけになるような感じがして、独特のクローズドな空気と白黒の画面の調和が珍妙に感じられました。映画『ロバータ』においては名曲『煙が目にしみる』は女性歌手によって披露されていました。オペラのような歌唱法の彼女の歌が良かった。また劇伴にも本曲のメロディが使われているようでした。

楽団を率いるフレッドアステアが、うちらの楽団を雇ってもらえないかと交渉を交わすシーンで、それまで頑なに「雇わない!」と拒んできた雇い主なのに、何度か交渉の機会を重ねたりひとことふたことみこと四言……と交わしたりするうちにどこかで論理がくつがえったのか「(そういうことなら)」となったのか、急に「雇う」と雇い主の意向が変わるなど人の決意・意向の急激な跳ねっ返りがちょっと古き良き(?)ミュージカルのご都合的な進行だなと思わせるシーンもありご愛嬌といったところか。

観られる条件下の方は楽曲の干渉と合わせてぜひ映画も観てみてください。

青沼詩郎

参考Wikipedia>煙が目にしみる (曲)The Platters

歌詞を掲載した参考サイト 世界の民謡・童謡>煙が目にしみる Smoke Gets In Your Eyes 歌詞の意味・和訳 プラターズのカバーがヒット/ジャズのスタンダード・ナンバーにも

『Smoke Gets In Your Eyes』を収録した『Smoke Gets In Your Eyes <5 Original Albums 1959-1962>』(1992年?、もしくは再発2016年か)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Smoke Gets In Your Eyes(The Plattersの実演(Cover)も有名、ミュージカル『ロバータ』由来の名スタンダード)必至の理【キーボード弾き語り・寸評つき】』)