泡の儚さと辛(から)み
Aセクションに戻るときに君はファンキーモンキーbaby!……とつい言いたくなります、わたくしの悪ふざけ。
キャロルがロカビリー的アプローチから滲み出るポップソングを開発した功労者の一つだとすればその音楽的な面影があとかたもなくなるわけではなく、一本の順序だった矢沢永吉さんの物語の延長上にこの曲があると思えます。
この曲を収録したアルバム『I LOVE YOU, OK』は音楽的なアプローチ、サウンドの質感の幅が広いですし三人の作詞者がみせる音楽を彩ることばの魔術も豊かな様相です。
その振れ幅にコークのような刹那の清涼感をもたらすのが本曲、ウイスキー・コーク。バンドを組んでいたキャリアを青春の観念、人生のハイライトと解釈すればそれを少し離れた位置からウイスキー・コークのしゅわしゅわした泡や清涼感のような儚さと重ね見ているようで、「夏(ハイシーズン、ハイライトの象徴)」をすこしすぎたところから回顧する秋っぽい歌だなと思えます。
ただのコークだったら青少年期ですが、そこにウイスキーがまざり大人の視線から同胞意識をもって過去を見やる慈しみが薫っており主題・モチーフの設定・扱いからしても秀逸です。
ウイスキー・コーク 矢沢永吉 曲の名義、発表の概要
作詞:相沢行夫、作曲:矢沢永吉。矢沢永吉のアルバム『I LOVE YOU, OK』(1975)に収録。
矢沢永吉 ウイスキー・コーク(アルバム『I LOVE YOU,OK』収録、Remastered 2022)を聴く
ちりちりっとしたフェイズがかったようなエレキギター。左によく動くもの、右にリズムのものが振り分けられます。ピアノの響きが芯をなし、オルガンがくわっとグリッサンドで派手に次のセクションの始まりを宣言。ベースの輪郭が丸くて強く質感がどっしり。ドラムの衝突音がふわふわした青春を記憶の印画紙に焼き止めます。
矢沢さんの声にダブリングがかかって、時代や時季の回顧の演出に思えます。間奏から復帰したBセクションでダブリングが外れて、この部分は生身の現在地の声なのだと悟ります。間奏でリズムが緩慢になるのが清涼感。主題のウイスキー・コークのアイデンティティに重なります。
ピアノ・オルガン・ギター・ギター・ベース・ドラム。ちいさなライブハウスにもすっぽり収まりそうな編成で重要なパートを再現できそうな必要十分なアレンジが好感です。
歌詞に注目する 時季にまたがる定点観測者
“オレ達の出逢いを見つめていたのは 甘くにがいウイスキー・コーク 酔った振りしながらキッスのチャンスをさがしたのは本気だったからさ 短い映画のような あの季節はもう帰らない”(『ウイスキー・コーク』より、作詞:相沢行夫)
ウイスキー・コークは「あの季節」のときにもフロアのカウンターの上にいて、主人公たちのなりゆきを知っているようです。
“グラスの向うにおどけたオレ達 知っているのはウイスキー・コークだけさ オレ達若かったよな いつも何か追いかけてた グラスの向うで何かが変った 知っているのはウイスキー・コークだけさ”(『ウイスキー・コーク』より、作詞:相沢行夫)
主人公たちが若かった日々と、その先。その境界にあり、あるいは両方の時季にまたがって存在する観測者がウイスキー・コークのグラスなのです。コークの甘さが恋をほのめかし、そうした享楽の瞬間を常にカウンターやフロアにこぼしながら主人公たちは一方向に未来に向かっていく無情を「苦味」に凝縮。ウイスキー・コークが青年期以降の人生の大半が詰まった特別なお酒に思えます。モチーフ・主題の扱いがきわめてすぐれた作詞を、過去をしめじめ振り返るのでなくあくまで勢いにまかせる気力体力経験が充実した現在・その後。動きとわびさびのある作曲でさらに昇華します。
青沼詩郎
参考Wikipedia>I LOVE YOU,OK (アルバム)
矢沢永吉公式サイトへのリンク 2027年のツアーが発表されています。
『ウイスキー・コーク』を収録した矢沢永吉のアルバム『I LOVE YOU, OK』(1975)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ウイスキー・コーク(矢沢永吉の曲)泡の儚さと辛(から)み【ピアノ弾き語り・寸評つき】』)