タイムマシンにおねがい 曲の名義、発表の概要について
作詞:松山猛、作曲:加藤和彦。サディスティック・ミカ・バンドのシングル、アルバム『黒船』(1974)に収録。
サウンドリスニング・メモ
ダブリングしたボーカルがいきなりハイテンションで飛んできます。
エレキギター、ドカーン! こちらもダブってあります……というか左右で違うリフのイントロ。中央奥付近にも聴こえる? 少なく見積もっても合計3〜4本はギターが入っていそうです。
ドラムスのハイハットとタンバリンがジャクジャクジャクジャク・・・リズムをキープする脇役? いえいえ、興奮をあおり目立っています。ときおりシックスティーン。スネアの音が格好良い。
奥のほうに鍵盤の類がきこえます。ピアノ、それにオルガンでしょうか。ピアノやエレキなどウワモノがかなりエイトビートを出しているので、むしろベースがエイトビートのすきまで遊べるのかもしれません。
そのベースはよく聴くとAメロの3〜4・7〜8小節目、間奏などに細かい打点のストロークがあります。エイトビートの歯切れにもニュアンスがあって、まるで断続的な信号をブッブッブと発しているみたい。これがグルーヴを生んでいます。ウワモノを統率する黒幕です。
歌詞
作詞者は松山猛。ザ・フォーク・クルセダーズの『帰って来たヨッパライ』の作詞や『イムジン河』の訳詞を担いました。編集者として雑誌『BRUTUS』に携わった人だそうです。
“ジュラ紀の世界が広がり 遥かな化石の時代よ アンモナイトはお昼寝 ティラノザウルスお散歩”(『タイムマシンにお願い』より、作詞:松山猛 作曲:加藤和彦)
タイムマシンという設定が舞台の行き来を自由にしています。人間が蔓延るずっと前の時代で、現代の人間のように古代生物たちが振る舞っていたのかもしれません。
フックの単語
カタカナや特定の時代を強く象徴する単語がふんだんに出てきます。
知っているようでよく知らなかった単語。偏見で気になったものを選び、大雑把に紹介します。
・ミンク……毛皮
・ボギー……俳優
・ソフト……ぼうし
・デュセンバーグ……クルマ
・鹿鳴館……東京府にあった西洋建築物。国家レベル? の外交や接待の拠点となった。
・ポンパドール……髪型
こちらのサイト(英語生活ノおト+α)が非常に、私が知りたいことをよくまとめてくださっています。丁寧な解説をお求めでしたら、リンク先ほかをご参照ください。
“好きな時代に行けるわ 時間の螺旋をひと飛び”(『タイムマシンにお願い』より、作詞:松山猛 作曲:加藤和彦)
“時間の螺旋”というのが良いですね。一方通行で流れて二度と戻らないものという思い込みがありますが、ぐるぐると似たような軌道を繰り返し描いているのです。同じところを巡っているように見えても、上下(奥行き)方向には移動しているのかもしれません。そうやって歴史を積み重ね、文明を高めてきたのかもしれません。
最後の方では音飛びするレコードが同じところを繰り返し再生してしまうみたいに“タイムマシンにお願い”をひたすら繰り返します。壊れてしまったみたい。そしてブツリとまるでレコードから針を外すみたいに音をカットアウトしてトラックが終わるところなど、私の想像した通りの意図があるかのように思わせてくれます。レコードは円盤状の物体で、回転させて利用するものですから、螺旋のイメージにも合いますね。繰り返し訪れる暦、天体、宇宙の運動といいますか・・・さすがモチーフが「タイムマシン」だけあって想像が宇宙まで広がります。
コードについて
AメロからいきなりⅤの和音をぶちかますところにインパクトがあります。Ⅴの和音は不安定、緊張感のシンボルです。
曲に用いているコードはメチャメチャシンプル。ほぼスリーコードです。スリーコードはⅠ、Ⅳ、Ⅴ。Cメージャーでいえばそれぞれドミソ(Ⅰ)、ファラド(Ⅳ)、ソシレ(Ⅴ)でコードネームはC、F、Gです。原曲の調はAメージャーですね。
スリーコードを中心に、小賢しいコードは排除する方向で考えれば、Aメロのアタマでパーンと潔くⅤの和音をあてがうのも大胆ですが納得です。それが最高にパワーを生んでいます。
おまけに、この曲で出てくるボーカルの一番高い音を、歌い出しでいきなり発しています。
Jポップ・歌謡曲あるあるでは、サビの一番盛り上がるところまでハイトーンは我慢するもの……? そんなもん知らねーー!! そう、これはロックなのです。センセーションなのです。革命で福音なのです。ああ、カッコいい。作曲は加藤和彦。本物の星になった人。
青沼詩郎
Char参上。ギターのツインタワーや。
こんな動画もみつけました。プログレッシヴ・ロックのようなファンクのような激し目のジャズのような? 全員技量があるのがわかります。クリーンなリフをタイトに決めています。
『タイムマシンにおねがい』を収録したサディスティック・ミカ・バンドのアルバム『黒船』(1974)。タイトルからして得体の知れないものすごいモンが来た感。「タイムマシン」も一種の「黒船」か。
ご笑覧ください 拙演