映像
イントロ、ギターを弾く一瞬の隙間に手をあげるパフォーマンスをする仲井戸麗市。メンバーをぐるりといろんなアングルからとらえるカメラ。照明とカメラのあいだを忌野清志郎が遮って間断的に光が画面に差し込みます。間奏でド派手なスモークの演出。興奮しますね。忌野清志郎はピンクのジャケットの上下。首にスカーフのようなものを巻いて後ろに垂らしています。躍動感いっぱいに体を揺らしながら歌う忌野清志郎。最後にジャンプ。
こちらの映像は久保講堂でのライブの時のもののようです。RCサクセションのアルバム『RHAPSODY』(1980)に収録された音源と一致しますね。
曲について
RCサクセションのシングル(1980)、アルバム『EPLP』(1981)に収録。作詞・作曲:忌野清志郎、仲井戸麗市。
RCサクセション『雨あがりの夜空に』を聴く
ギターのリズムとともにカウベルのカウントが轟くイントロ。左にメロディや合いの手の華やかなトーンのシンセ。右では低音域のシンセがリズムを出します。ピアノやアディショナルのギターの合いの手がおいしいところで口を利いてきます。サビほかいくつかのフレーズの要所はみんなで歌う。ステージにメンバーが位置して各々の楽器を奏でつつユニゾンで歌っているような感じでそれぞれの声も左右に定位しています。
右の低域のシンセとは別に、中央にエレキベースがもちろんいます。そのパターンもリズミカル。オモテ拍・ウラ拍を弾き分け、時には16分音符の装飾でヒレをつけてもいます。芸が細かい。注目(注耳)するほどにいい仕事してるな〜と感じます。
ドラムスはタイトな音作り。これまた注目(注耳)しているとリズムパターンのバリエーションが非常に多様です。キックが4つ打ちになったり、ハーフテンポ風になったり、オモテだけキックするシンプルなパターンだったり、オモテ・ウラ両方にキックするクドめのパターンだったり。2・4拍目のスネアのポイントではキックを鳴らさずトリッキーに打ち分けるパターンもあれば、キックも同時に鳴らしてビートに着実なパワーを与えているパターンもあります。ライドを4つ打ちしたり、ハイハットを8つで打ったり、フィルインでは16分の連打を見せたりと音価の使い分けも細かい。ベースとドラムスのコンビネーションだけでもずっと聴いていたい味わい深さがあります。ベーシック・リズムなのに高らかに歌う心意気を感じます。
忌野清志郎のボーカルのキャラクターは言わずもがな。一期一会の生々しさが宿っています……このシングル版、スタジオ録音ですよね? ライブかと聴きまがう躍動です。
歌詞
クルマのことをパートナーとみなして歌っている様子。“おまえ”と呼んでいます。全編にわたり、“おまえ”とできたはずのこと、これまでにやれてきたこと、“おまえ”に乗るのにおあつらえ向きな素晴らしきシチュエーションが歌われています。
“こんな夜におまえに乗れないなんて こんな夜に発車できないなんて”(『雨あがりの夜空に』より、作詞・作曲:忌野清志郎、仲井戸麗市)
それなのに、“おまえ”と走り出せない現実。この落差が曲のパワーです。
「おまえは最高だ。おまえとどこまでも走っていこうぜ」で結ばれるなら、凡庸陳腐の見本だったかもしれません。
おまえにのれない! 発車できない!
未来はこれから変えて行けるものですが、目の前の現実は最新の過去。つねに融合していて、刻々と飲み込んでいくのです。
最新の過去である目の前の現実を認めることから未来は始まるのです。
終わった! 死んだ! クソだ! 苦しい! 絶望だ!
おまえに乗れない、発車できない最低な現実をここに置くことは、未来への希望の影なのです。
ひとことも綺麗事や口先の夢を表現していない。あるのは、これまでの“おまえ”とのあゆみ、そして最新の過去である目の前の現実のみ。それを切り取ることは、最もセクシーでかしこい創造の始点なのです。
ゾクゾクするロックがここにある。
私は無い頭をひねっていっしょうけんめい言葉にしますが、足りません。言葉はいつもロックにおくれをとっている。足りなくてたまらないやつが、ギター持ったり歌ったりするのか。「足りない奴」が現れつづけるかぎり、潰えないのがロックか。
“雨あがりの夜空に流れる/ジンライムのようなお月さま”(『雨あがりの夜空に』より、作詞・作曲:忌野清志郎、仲井戸麗市)
月夜に立ち尽くす男の影を思います。
青沼詩郎
RCサクセション ユニバーサル・ミュージック・ジャパン サイトへのリンク
『雨あがりの夜空に』を収録したRCサクセションの『EPLP』(1981)
『雨あがりの夜空に』(ライブ録音版)を収録したRCサクセションの『RHAPSODY』(1980)
『雨あがりの夜空に』を収録したRCサクセションのデビュー45周年記念ベスト・アルバム『KING OF BEST』(2015)
ご笑覧ください 拙演