映像

サングラスふたりがならびます。奥田民生と井上陽水のギターストロークのキャラが違いますね。サビやBメロで奥田民生はオルタネイトでトリプレットを弾いているようです。井上陽水は撫でるように余裕ある感じ。奥田民生はタイトでキビキビしています。手持ちのカメラがふたりにかなり近づきます。上から下からほうぼうからスポットライトが交差してキレイな舞台照明。

曲について

井上陽水奥田民生のシングル、アルバム『ショッピング』(1997)に収録。作詞・作曲:井上陽水・奥田民生。

井上陽水奥田民生『ありがとう』を聴く

サウンドリスニングメモ

セブンス、ナインスの音をふくめたギターアルペジオのイントロ。なんとなくビートルズの『Paperback Writer』を思い出させるリフです。

ふたりの奇抜なボーカリストの質量あるハモりはいうまでもなく。

アコギが2本くらいいる感じなのはもちろん井上陽水・奥田民生両方の演奏がはいっているのでしょうね。真ん中あたり、右のほうにアコギがきこえる感じです。カラッとしていて派手さもある鳴りです。

左にエレキギター。ジャッジャッジャッジャ……とAメロ。アコギともストロークをあわせています。真ん中付近にも要所でアルペジオするエレキギターがいます。冒頭でも聴いたセブンスやナインスの音を弾くアイツです。

間奏ではバロックを思わせる古楽器ふうのソロ。チェンバロのトーンでしょうか。かなりギッタンバッコンと細かい。流麗なのにドタバタ感があってちょっと笑えます。

2コーラス目の平歌、“はじき飛んでくれて 今日はありがとう”の直前にはシンセのような単純な音が上行のポルタメント。なんだか間抜けな感じがする音の演出です。

コード進行や構成

イントロのギターリフ4小節につづいて早速、サビ。♪ありがとう ありがとう 感謝しよう……のところ。

|Ⅵm|ⅡM|Ⅵm|ⅡM|Ⅳ Ⅴ|Ⅵm|

6小節でぱっと次のAメロに連結します。おしりのコードがⅠではなくⅥmなのが渋いです。

続くAメロ。

|Ⅰ|Ⅴ|Ⅰ Ⅳ Ⅶ♭|

という流れ。♪微笑んでくれて どうもありがとう……のところです。3小節フレーズになっているのが見逃せません。直後の♪プレゼントくれて どうもありがとう……のところでは、

|Ⅰ|Ⅴm|Ⅰ Ⅳ Ⅶ♭|

と、2小節目のⅤをマイナーに変えて異質な響きを取り入れています。

さらに続く♪楽しんでくれて どうもありがとう……のところでは

|ⅥM ⅡM|ⅥM ⅡM|Ⅰ Ⅳ Ⅶ♭|Ⅰ Ⅳ Ⅶ♭|

と、冒頭の2小節を長2度上に転調したようなコード進行。曲はDメージャー調ですが、全音上の調・Eメージャーで|Ⅴ Ⅰ|Ⅴ Ⅰ|という動きをしたとみなせます。|Ⅰ|Ⅴ|という順番が|Ⅴ Ⅰ|と逆になっていますね。コードチェンジも忙しい頻度になっていて変化を与えています。

3小節単位のパターンを2度(♪微笑んでくれて どうもありがとう 〜 ♪プレゼントくれて どうもありがとう)、変化を与えておしりに1小節加えたパターンを1度(♪楽しんでくれて どうもありがとう)。合計10小節でまとまりを成しています。最後の1小節は余白を加えて時間の密度を調整した感じですから、実際のところは奇数のかたまりを奇数の倍数回(3小節×3回)もうけて、おしりに1小節くっつけて10小節にした感じです。これでAメロのまとまりを成しているのです。このまとまり(Aメロ)を、まずは奥田民生ボーカル。次の10小節(A’メロ)を井上陽水ボーカルが演じます。

続いてBメロ。♪強い人 弱い人 男の人 女の人……のところでは

|Ⅱm|Ⅴ|Ⅱm|ⅢM Ⅵm|

という進行。♪女の人…のところでⅢMの響きを用いて緊張感を高めています。

続く♪目立つ人 地味な人 みんな みんな ありがとう (イエー)……では、

|Ⅱm|Ⅴ|Ⅱm|Ⅳ|Ⅵ♭|Ⅰ|

6小節のまとまりです。

そしてイントロ後すぐにあらわれたサビのパターン。♪ありがとう ありがとう 感謝して……です。語末が「しよう」から「して」に変わりました。

|Ⅵm|ⅡM|Ⅵm|ⅡM|Ⅳ Ⅴ|Ⅰ|Ⅰ|

おしりのコードを今度はⅠにしたうえ、そのままもう1小節ひっぱって7小節にして間奏の古典音楽風ソロにつなげています。

続いて2コーラス目のAメロ。今度は井上陽水の出番が先です。

あとはおおむね1コーラス目と同じ構成。最後のサビが♪感謝して 感謝しよう となり、相互の感謝を表現しています。イントロのサビで6小節、1コーラス目のサビで7小節だったサビはここでようやく8小節になりました。やっと楽節(複数の小節のまとまり)を満了できた感じですね。

最後の最後に主題のひとこと「♪ありがとう」(3小節)がつきます。

|Ⅱm Ⅴ|Ⅳ ⅠM7|Ⅰ|

これまでにないパターンです。最後の最後までやってくれますね。ヒネリとフックに満ちた“ありがとう”です。

歌詞、解釈、感想ほか

音楽面をみるとコードや構成の意匠が非常に凝っていてうまいなと思いました。奇数小節×奇数ラインとか。

普遍のテーマ、“ありがとう”。ありふれているからこそ何をどう表現してよいか難しく構えてしまいます。井上陽水奥田民生のおふたりはこれをカラリとサッパリ・キッパリと表現していて好感。人類のありふれた特徴やありふれた主観によって、より大きな母数の獲得に成功した歌詞です。

2コーラス目の井上陽水パートの歌詞のちょっと飛躍した感じが独特です。

“連れってってくれて たまにありがとう” “重なってくれて 実にありがとう” “弾き飛んでくれて 今日はありがとう”(『ありがとう』より、作詞:井上陽水・奥田民生)

井上陽水らしい、ちょっと意味ワカランのに堂々とした態度がたまりません。

みっつめの“弾き飛んでくれて”が特に意味がわからないなと思いましたが、ふと思いついたのはやくざさんたちのドンパチ騒ぎ(拳銃のことを「ハジキ」と呼ぶらしいし……)。それすらも”ありがとう”なのだとしたら、この世のあらゆる裏の事情までも網羅して感謝してしまう極端さがあり痛快です(痛いで済めばまだ良い?)。

“重なってくれて 実にありがとう”も抽象的だなと思いましたが、思い至ったのは性行為のこと。ドシモネタぶっ込んできたな……と解釈するのもエクスタシーです。

そうすると2コーラス目第1ラインの“連れてってくれて たまにありがとう”は、イケナイクスリとか葉っぱの類のトリップのことかもしれないと思えてきます。あるいは性行為の絶頂ね。“たまに”が笑えます(笑えない?)。

へんな妄想をはじめると奥田先生パートもふくめて、なんだかどれもアブノーマルな行為や半グレ(完グレ?)な営み、性行為ほかについて云っているような気がしてきました……“プレゼントくれて どうもありがとう” “楽しんでくれて どうもありあがとう” “つながってくれて 毎度ありがとう” “うまくごまかしてくれて どうもありがとう” “つきあってくれて どうもありがとう”…… どうです? もう真っ黒くろじゃないですか……。

“手をふってくれて いつもありがとう” は今生の別、生死について云っているようで深みがあります。感謝に通ずるありがたいお説教です。

お読みいただき、ありがとうございました。

青沼詩郎

Wikipedia > 井上陽水奥田民生

井上陽水 公式サイトへのリンク

奥田民生 公式サイトへのリンク

『ありがとう』を収録した井上陽水奥田民生のアルバム『ショッピング』(1997)

井上陽水奥田民生のシングル『ありがとう』(1997)

ご笑覧ください 拙演