映像
Boys Town Gang
デコボコ身長の3人が揺れます。シンガーのふわふわの髪型・黒髪、褐色の肌に白いドレスがすごいインパクトです。傍で踊る男性2人。胸毛も腹直筋も露出しています。着る意味あるの? とつっこみたくなるほどにインパクトのある衣装、いでたち。踊りもウマイんだかキレがあるんだかわかりません。
2コーラス目で男性1人の手の胸に手をやるシンガー。ダンサー、ようやく役に立った感(暴言)。触れられた男性の不敵な笑み。不気味です……もう1人の男性とも絡みます。
コーラス(サビ)時の男性らのダンスは肩幅よりわずかに広く左右に足を開いて足の裏を固定するようにカッチリと立ち、上下・左右に指パッチンをするかするでもなくといった感じに両手を振るダンス。シンガーの顔じゅうの穴という穴を全開にした感じの表情づかいがナイスです。
サビでダブリングが効く感じ、マイクを遠く離した瞬間にも声の音量が安定している感じ、それから決定的なのはワンコーラス歌い終えたあとつぎのコーラスにうつるときにボーカルが別トラックでカブってくるのを見るに、アテ振り(リップシンク)の映像でしょう。堪能しました。曲の良さがどっか吹っ飛んでいっちゃう、気になるポイントの多い映像です。
フランキー・ヴァリ
聴衆の中に立ってカラオケで
ハイネックにジャケットの服装。独特のフォームにまとめたヘアスタイル。近くてドライな音像のボーカルです。カメラがひくとびっくりするくらいお客さんの近くに立っていたことがわかります。オケの音が遠くて弱くてかつ聴き覚えのあるものだなと思ったらカラオケですね。ドラムスがうしろに映りますが誰も演奏していません。
サビの声量はさすがで歪むほどです。サビのアタマでは腰を少しまげて頭を下げ、しゃくるような体のつかいかたをしていますが音程はカチっと入っています。マイクをかなり離して歌唱しているにもかかわらずバリっと歪んでいる。歌唱の迫力はさすが。カラオケなのが惜しいかも。
後年の仕上がり
すごい数の聴衆、広い会場です。年齢を重ねた声質ですが相変わらずバンドに埋もれません。むしろ埋もれない成分にますます磨きがかかった印象さえ受けます。歌手のキャリアが彼の声をそう変化させていったのでしょうね。興味深いです。
1回目のサビはがっつり聴衆に歌わせます。みんなに浸透した曲だとうかがえます。若々しいコーラス4人を率いて豪華で特別なアレンジ。フランキー・ヴァリのボーカルは機械みたいに正確なピッチ。2回目のサビは自分でも歌いますし高いところも出ています。生涯エンターテイナーでいる仕上がり具合。興味深い。
曲について
Frankie Valli(フランキー・ヴァリ)のシングル、アルバム『The 4 Seasons Present Frankie Valli Solo』(1967)に収録。作詞・作曲:Bob Crewe(ボブ・クルー)、Bob Gaudio (ボブ・ゴーディオ)。
フランキー・ヴァリ『Can’t Take My Eyes Off You』を聴く
ブラスのサスティンするイントロ。右にドラムス、ベース。左にビブラフォン、ヴァース(ヒラウタ)で3・4拍目ウラにきこえる残響のついたスクラッチ・ノイズみたいなものはギターでしょうか? 左にピアノも入ってきます。ブラスも左。ストリングスも左。中央にいるのは完全にボーカルのみです。かなり極端な定位づけですがこれもひとつの正解かもしれません。
和音や進行について
イントロの和音の緊張感がもうオシャレ。Ⅰ度上のⅡMです。
|ⅡM /Ⅰ|Ⅱm/Ⅰ|Ⅰ|Ⅰ|
曲はEメージャー。主音(ミ)の上にラ#が乗っかっているのです。半音下がってナチュラルのラへ。ファミッレッミファソ……とウラ拍をつかったリズム。
ヴァースのコード進行。
|Ⅰ|〃|ⅠM7|〃|Ⅰ7|〃|Ⅳ|〃|Ⅳm6|〃|Ⅰ|〃|ⅡM/Ⅰ|Ⅱm/Ⅰ|Ⅰ|〃|
主音からメージャーセブンス、セブンスと下がっていきます。
以下、固定音でコードとクリシェのカウンターラインをみてみます。
ミ(E)、レ♯(EM7)、レ(E7)、ド♯(A)、ド(Am6)、シ(E)、ラ♯(F♯/E)、ラ(F#m/E)、ソ♯(E)
といった具合にカンペキに半音順次下行でコード内の音をつなぎきれるヴァース(ヒラウタ)なのです。
コーラス(サビ)前は超有名なリフではないでしょうか。シ♯ード♯、シ♯ード♯、シ♯ード♯ミッレ♯ッド♯……というフレーズ。
「シ♯ード♯」の動きは、
・F♯m(Ⅱm)のコードのときは増4度→完全5度への解決。
・B(Ⅴ)のコードのときは増8(1)度→長9度への解決。
・E(Ⅰ)のコードのときは増5度→長6度への解決。
ということになります。
BやEのコードのときは、解決しても緊張した音程。複雑な響きで聴き手の注意をキープします。「どうなっちゃうの?!」という期待が高まります。
このリフを抜けるとき、サビへ入る和音はC#7(♯9)。シャープ・ナインス。根音からかぞえて長3度と半音でぶつかる短3度を上に転回させた音(♯9)を同居させる悩殺の響きです。狂おしい・悩ましい。長・短どっちかにしてよ! とやきもきさせる響きなのです。
ボーカルの音程が♯9のさらに3度上にあたるソ♯で「アイ・ラブ・ユー……」と入ってくるので、音を積みに積みまくった罪なサビ入り。
最大のラウドネスでフランキー・ヴァリの歌唱が轟きます。私はここで何度も泣きました。
転調
・コーラス(サビ)を済ませてすかさず次のヴァース(ヒラウタ)に入るのですが、なんとここでⅢ♭調へ転調してしまう。Eメージャー→Gメージャーです。
このカラクリは、コーラス(サビ)の抜け際のコードをEメージャー調におけるⅦ♭、すなわちDにしていること。
DはGメージャー調のⅤ(ドミナント)なので、そのままつながってしまうのです。この感覚がすごい。
ですが、そのままだと次のコーラス(サビ)の音域が高くなりすぎてムチャクチャになってしまうのではないかと不安になります。でも心配は無用。直るのです。コーラス(サビ)前の、例のリフのところでしれっと!
・転調(Gメージャー)のヤメ際の和音はG。(歌詞「Can’t take my eyes off you」と歌うところ)この時点での主和音です。で、元のE調に戻るときの最初の和音はF#m。Eメージャー調にとってⅡmの和音です。ベースラインは短2度下降で連結できます。順次進行、それも短2度なので非常にスムーズです。Ⅱm(F#m)はそのまま→Ⅴ(B)へ。Ⅱm→Ⅴはドミナントモーション。これを聴かせたら、もう間違いなくその調(ここではEメージャー)になるという決まり手です。
こうして、サビがムチャクチャな音域になることなく、転調のドラマをつくり音楽の内容を豊かに・変化に富んだものにして、聴き手をメロメロにする轟く歌唱のコーラス(サビ)が帰ってくるのです。最高・オブ・最高。
雑感とか
高校生のとき、椎名林檎によるカバーでこの曲に親しみました。それ以前にも、何かとテレビなどのメディアで聴き及びのある曲でした。そういうときにかかるのはほとんどBoys Town Gangのカバーだったと思います。そのイメージを塗り替えるのが椎名林檎のものだったのです。
ご本家をちゃんと鑑賞したのはなんだかんだ今回が初めて。フランキー・ヴァリの歌唱には本当にヤられました。ホットに歪んだサウンドはアナログの肌触り。カッコいいです。
椎名林檎によるカバー『君ノ瞳ニ恋シテル』を聴く
ピアノのイントロ。テンポを自由にしている感じです。バンドに入る前のテンションあるコードがいいですね。
おもいきり歪んだギターの濁りに濁ったストロークでオープニング。ベースのハイポジが浮き浮き。ドンシャカバスカンと抜けたドラムスは椎名林檎印といった感じ。右にインしてくるエレキギターが狂っていていいかんじです。おきまりのリフは椎名林檎の歪みまくったボーカルで表現。「アイラブユーベーベー」のサビのフレーズはデジってるシンセみたいな音がユニゾンしてきます。2コーラス目にもシンセっぽい音がよりマッチョに鳴り狂う。歪んだギターとギョムギョムとラウドなシンセトーンで曲をかき回し撹乱。外し・崩しのセンスが高い。間断なく埋めるドラムス&ベースの8ビートでどこまでも走っていきます。ラストはフェード処理。
久しぶりに聴いたけどやっぱりかっこいい。椎名林檎の得意そうなスタイルに曲を引き込んで消化していて好印象です。
青沼詩郎
フランキー・ヴァリ『Can’t Take My Eyes Off You』収録盤
椎名林檎による『Can’t Take My Eyes Off You』カバー『君ノ瞳ニ恋シテル』をカップリングしたシングル『罪と罰』(2000)
椎名林檎のカップリング集『私と放電』(2008)。『君ノ瞳ニ恋シテル』ほか収録。
ご笑覧ください 拙演