近田春夫さんとGS著書

グループ・サウンズにあんまりはまってしまって曲を聴いたり自分でも弾き語りで演奏してみたりしていてそれを動画にして公開したりしているとさまざま反響をいただくことも増えましてある日『GSワンダーランド』というグループサウンズバンドをやる主人公らを描いた映画を教えてもらいまして鑑賞しましたら興味がもっとわいてしまいまして書籍などで生のグループ・サウンズを体験している人の声が聞きたいなと思いまして行き当たったのが近田春夫さんの著書、タイトルはほかでもない『グループサウンズ』。これを読んでいましたら、当然近田春夫さん自身のほうにも興味がわくわけです。

近田春夫さんご自身もミュージシャンで歌手でいらっしゃいます。わりと音楽評論の人としての浅い認知が私のなかにありましたが、これがまたハリのある美声を轟かせるシンガーなのだと知り音楽の際限ないおもしろさにがぜん肉汁がしたたる思いです。

ああ、レディハリケーン 近田春夫 曲の名義、発表の概要

作詞:楳図かずお、作曲:近田春夫、編曲:矢野誠。近田春夫のシングル(1979)。アルバム『天然の美』(1979)にボーナストラックとして収録。

近田春夫 ああ、レディハリケーンを聴く

デジデジしたサウンドが終止私の心に警鐘を鳴らしつづけるみたいです。わさわさと掻き立てる。この焦燥感が見事です。

近田春夫さんのロングトーンの尻にむかってメロメロの演歌の「こぶし」のようなうねり、ゆらぎを加える歌唱の凄み。これが世にいうテクノ歌謡というものなのでしょうか。

16分割でシンセのトーンが猛烈に定規の目盛りを挿入します。ドラムスは生演奏でしょうか、右に降ったハイハットの質感が躍動しています。キックのタイトでホットなトーンが熾烈で、定規のようなシンセのトーンと見事に融合しています。いそがしいベースはシンセなのかな?生の竿物のベースはいないのかどうか、ちょっと聴き取りきれません。

歌詞がなんと楳図かずおさんですね。郷ひろみさんへの提供曲などで漫画家の彼が作詞をするのは知っていました。近田さんとも共作していたのですね。このなんともいえない韻律のフレーズと作曲があいまったせいか、和声のはこびにフックがきいています。特別やっかいなコード進行というほどに複雑なものではないですが、手綱のかけひきが上手いのです。このユニークな歌詞と音楽のかけあわせの妙を思います。ひょっとして詞先で制作したのでしょうか。

ハリケーンのように心をぶわぶわと揺さぶり倒して去っていきます。途中のリズムのキメが猛烈に「オッレッ!」て叫びたくなるのはなぜでしょう。

図:『ああ、レディハリケーン』イントロモチーフの採譜例。和声的短音階の増2度(ファ→ソ♯)を含み、眉間にしわを寄せたくなる酸っぱ苦いアルペジオフレーズを奏でるキビキビしたシンセの音色。ドラマティックな歌唱のオープニングにうってつけです。

歌詞

耳のうしろに ピアスのあとが きのうのままで けし忘れてる ああ レディ ハリケーン いくら自分をだましてみても 心のうねりは かくせはしない 今も愛した ふりしているよ いずれは消えてく 熱風だから(『ああ、レディハリケーン』より、作詞:楳図かずお)

意味がわからないのですが独特の貫通力で説き伏せるミステリーなことばづかいです。「心のうねり」が主題のハリケーンを紐解くキーワードになっていますね。

ピアスのあとを消す必然がわかりません。なにかそういう身だしなみに厳しいバイトなどがあるでしょうか。ピアスを外すことはできても穴をなかったことにはできません。何かを塗りこんでマスクして穴がないようにみせるカムフラージュは可能でしょう。

ピアスの穴は心の傷とかそういう「ついてしまった、負ってしまった不慮のもの」の象徴ととらえるのは無理があります。おおむね、自分の意思で、ファッションのために穴をあけるものだからです。このあたりが、最終コーラスで出てくる

いつも男は身勝手だから 女をこのみに仕上げておいて すぐに心は 見知らぬ海へ 別れをつげずにとびさっていく(『ああ、レディハリケーン』より、作詞:楳図かずお)

の歌詞に懸かってくるのでしょうか。身勝手な男の好みに合わせて“開けてしまった”ピアスの穴だとしたらどうでしょう。いくぶん消化がよくなる解釈だと思えます。そう、ファッションのために自分の意思で開けるのがピアスの穴だとしても、その「意思」に過去の恋愛相手の影響が関わっているとしたら……開けてしまったピアスの穴を疎ましく思ったり、悔いたりする心理もじゅうぶん考えうるものです。

身勝手に海から海へと飛び去る気質もあるかもしれませんが、起きてしまったことをその後に及んでくよくよ気にするのは案外「女」よりも「男」の気質の一面としてありがちに思えます。心にピアスの穴みたいなものをたくさんこさえているのは誰なんでしょうね。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ああ、レディハリケーン

参考歌詞サイト 歌ネット>ああ、レディハリケーン

近田春夫 公式サイトへのリンク

『ああ、レディハリケーン』をボーナストラックとして収録した近田春夫のアルバム『天然の美』(1979)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ああ、レディハリケーン(近田春夫の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)