あじさい サニーデイ・サービス 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:曽我部恵一。サニーデイ・サービスのアルバム『東京』(1996)に収録。
サニーデイ・サービス あじさいを聴く
細かい譜割りでつめこむような、急いたリズムの緊密なヴァースのボーカルライン。かと思えばコーラスはファルセットに抜けたり、ふわっと儚く息を抜いて嘆くように優しく発声したりと、繊細極まる歌唱とボーカルメロディで、音楽全体が柔和で細密です。
ズド、ドシっと倍音の広がりなのかサウンドの厚みが気持ち良いドラムス、フレーズは徹してシンプルです。ベロンベロンと朗々としたフレージングと特徴的なサウンドのベースと妙コンビ。アコースティックギターのリフ、ストラミングのサウンドが透明感がもはや乙女。美麗です。ベーシックトラックの演奏は丸山晴茂さんのコンガが入っているくらいで、あとは曽我部さんだそう。多重録音ですね。私小説のようなパーソナルな匂いもする一因かもしれません。
ストリングスは篠崎正嗣クァルテット、ストリングスアレンジは矢野誠さん。可憐なボーカルを包み、そっと支える様相です。サビ前のフレーズなどはまるで花びらを吹き上げる風のよう。
“濡縁側に花鋏うち捨てられて
畳の目からにじみ出す花を切るの忘れてます”
(『あじさい』より、作詞:曽我部恵一)
聞き慣れない語彙が含められています。“濡縁側”。そもそも多くの家庭から「縁側」が消えつつある現代。濡らした布で拭きあげる掃除をした直後の縁側なら、濡れていることもあるでしょうか。あるいは、戸締りを油断した隙に突然の雨が吹き込んだのか。「濡れる」という観念が想像や意味の含みを広げます。縁側は、外と内がまじりあう境界です。
花が畳の目からにじみ出すというの幻がまた想的で、白昼の夢のようでもあります。それは、切ることが望まれる花なのでしょうか。手入れをすることを指して切ると表現しているのか。
“さいだぁのストロオに細い指をからませて
遥か遠い蜃気楼で袖を引かれました”
(『あじさい』より、作詞:曽我部恵一)
「さいだぁ」とひらがななのも趣味深いです。ストローと細い指の組み合わせがなんだか私に色情を想起させます。ハイカラな飲み物、さいだぁ。「袖を引く」の描写も読み筋を広げます。引き止めているのか、あるいは「後ろ髪を引かれる」みたいな未練の観念の味わいも隠れているかもしれません。
蜃気楼だけでも儚げなのに、なおかつ「遥か遠い」のです。現実感が薄い。小説の中の幻の光景でしょうか。
美しく儚い情景を音と言葉で現像した、それこそ大正の大衆小説の挿絵や表紙に使いたくなるような光景をソングライティングとサウンドで実現した傑出したアルバム曲です。
青沼詩郎
サニーデイ・サービス ROSE RECORDSサイトへのリンク
『あじさい』を収録したサニーデイ・ザービスのアルバム『東京』(1996)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『あじさい(サニーデイ・サービスの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)