中島みゆきさんを聴いて実直に思うのは言葉とメロディの磨かれた光です。私の心に登場人物を投映し、かれらが人生の紆余曲折を演じてわぁわぁと泣き喚いたり笑ったりします。それは私自身かもしれませんし、私自身に「あったかもしれない」架空の人生かもしれません。

中島みゆき 時代 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:中島みゆき。編曲:船山基紀。中島みゆきのシングル(1975)。 

中島みゆき 時代を味わう

1拍3連の拍子は、聴く人の心の準備をせかすことなく誘い込む最適のフォーマットです。絵の具をとかした色水がスローモーションでティッシュに染み込むように、中島みゆきさんの声と言葉が耳を伝って心で「私事(自分のこと)」に変換されていきます。

まわるまわるよ時代は回る 喜び悲しみくり返し 今日は別れた恋人たちも 生まれ変わってめぐり逢うよ(『時代』より、作詞:中島みゆき)

恋とは、その多くが儚く終わるもの。恋が始まったとして、その時の相手が、その後の長い人生を終えるまでの伴侶となることは割合としては稀でしょう。だから、恋は咲き、散る花の命に似て思えるのです。

恋は、甘い快楽です。終わってほしくない。ずっととろけていたい。恍惚として、その悦に浸っていたい。充足感で満たされていたい。なんでもできる気分でいたい。人生が自分のためにあって、世界が祝福してくれているような気分を長編映画にして100年残したい。それが恋です。

そんな恋の多くが、終わります。そんなのってないや。残酷だよ。どうか終わらないでくれ。そう思うのが私の心です。

別れるのは悲しい。恋を終わらせるなんて、花の首を刈り取るような蛮行です。でも、お互いの気持ちが通じていないものは、終わらせるしかないのです。

気持ちが通じていても、お互いの環境や状況や境遇が許さず、花の首を捻じ切らなければならないこともあるでしょう。遠距離に負けて終わる恋もある。もちろん、それは遠距離であることを理由に、恋を終わらせるという判断を勝利させた、というだけのことかもしれません。何にかえてでもその恋を勝利させたい気持ちが二人の間で通じていれば、それは「終の伴侶」への長い道のりの始まりかもしれません。二人を祝福しましょう。

やむにやまれぬ事情が、すべての恋にあるはずです。そうして、個別の事情のもと、恋は終わっていきます。だからせめて、来世で実ることを祈らせましょう。それくらいの想像の自由を祝福しましょう。

図:中島みゆき『時代』サビのスケッチ例。1拍3連の分割を謳歌し、揺らぐように踊るようなメロディです。大きな変化のなかに小さな変化が入れ子になった人生模様を思わせます。結びのフレーズ“生まれ変わって”……のところでコードの変化がめまぐるしくなるところなど、まるで人生の起伏や大小の変化のマトリョーシカ構造の権化です。順次進行を多く含んだ、なめらかで美しいメロディです。

今はこんなに悲しくて 涙も枯れ果てて もう二度と笑顔にはなれそうもないけど そんな時代もあったねと いつか話せる日が来るわ あんな時代もあったねと きっと笑って話せるわ だから今日はくよくよしないで 今日の風に吹かれましょう(『時代』より、作詞:中島みゆき)

歌詞の語り出しにいきなりフックを設けた、ちょっと変わった構成を持った大衆歌です。「今はこんなに」……。副次調から借りてきたコードの響きで、唐突に物語を綴りはじめるのです。

まるで、新生児が、おのれの意思などとは関係なく、強制的に人生の「ヨーイ、スタート!」の号令をかけられる。そんなカオスからの秩序の誕生を思わせる歌い出しではありませんか。「今はこんなに悲しくて」……の部分は、楽曲中、再現がありません。繰り返しがなく、冒頭だけに現れる意匠なのです。「まわるまわるよ時代は回る」と、輪廻を明らかに思わせるサビの歌詞ですが、「今はこんなに悲しくて」の意匠は輪廻しないのです。これは救いかもしれません。

悲しみは一時的なものなのだと。笑い種(ぐさ)になる日が必ずや来るのだと。ときおり、中島みゆきさんの楽曲には、同性の友人への深く寛容な激励を私は見出します。そんなこと言われたら泣いちゃうじゃんよ。もちろん、実際にリスナーが楽曲の主人公と同性の友人である必要はないのです。しかし、中島みゆきさんというリアル(現実)が、実在する直接の友人を励ますためだけに書いた「純心な動機」を私に幻視させるのです。きっと幻でなく、真実だと、無関係な私に思わせるほどに、語り手の心の質量を感じさせるのです。

図:中島みゆき『時代』歌い出しのスケッチ例。ツーファイブ進行を唐突なところから切り出したような緊迫した語り出し。8小節目の半終止(属和音で止める)で次の構成の頭に向かって緊張感を保ち、あとに続くAメロの凪いだ雰囲気を引き立てます。前半の4小節は2小節モチーフを下方に向かって反復するように。以後の4小節では、低いところをうろつくやいなや浮き上がるようなボーカルメロディです。

経過した不定の期間を区切る語彙、“時代”

少年時代、学生時代……人生の、あるところからあるところまでを指して「時代」と呼ぶことがあります。明治時代、大正時代などと元号に即して呼ぶこともあるでしょう。厳密ではない始点と終点である場合もあれば、ある程度はっきりした境界が認知できる「時代」もあるでしょう。

大変だった思い、感情が揺れ動いた時期を離れ、経過し、回顧したときに笑い種にするのです。

オチがつくことが、ひとつの時代の終わりを告げるのでしょう。その詳細や具体は、迎えてみないと分からないのです。いまこの瞬間も、あなたは何かしらの“時代”のさなかにいるはず。

青沼詩郎

参考Wikipedia>時代(中島みゆきの曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>時代

中島みゆき 公式サイトへのリンク

中島みゆきのシングル『時代』(1975)

『時代』を収録した中島みゆきのA/B面集『Singles』(オリジナル発売年:1987)

『時代』を収録した『中島みゆき THE BEST』(1985)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『時代(中島みゆきの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)