All My Loving The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲：Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『With the Beatles』（1963）に収録。
The Beatles All My Loving（アルバム『With the Beatles』収録、2009 Remaster）を聴く
突貫力があるのに、爽やかで儚くもあります。最高に気が利いていて、純真で実直なラブソングです。
ポールのベースフレーズの雄弁なこと。歌詞を帯びて意味や情景を描けるリードボーカルに負けず劣らず、人生を謳歌します。なめらかに下行したかとおもえば和声音を点々と突く。和声的でも旋律的でもあり、かつウォーキング風にリズムを刺激します。
ドラムの絶妙な揺らぎ、スウィング感がハナ。これもリンゴ印か。機械的な3分割で綺麗にハネているというのでもない……どこか筆が滑るのをあえて自由にさせたような、関節の緩みや柔軟さを思わせるグルーヴ感なのです。間奏のギターソロのあたりのドラムなど、ちょっと偶数分割のノリに変えたのかなと思わせる……気もするしやっぱり元通り3連系でハネている感じもする……風に揺らぐ枝葉のように魅惑の揺らぎが快感なドラムです。
ギターが熾烈な3連をオルタネイトピッキングで表現。3連をオルタネイトすると、オモテ拍に当たるストロークがアップとダウンの交互になるはず。トリッキーなテクスチャを楽曲に加えます。低音弦側からいく（ダウンストロークする）か、高音弦側からいく（アップストロークする）かは、ギターにニュアンスを激変させます。それがオモテの拍に当たるかウラの拍に当たるかも聴く人の印象を大きく左右するでしょう3連系のハネたグルーヴを演奏するとき、ダウンが表拍にいつも当たるようなストロークパターンを選ぶのが歌もの音楽の伴奏や弾き語りでは定番だと思うのですが、その点でAll My Lovingの埋め尽くすようなギターは異端で革新的だとおもいます。
右側にボーカルトラックが寄っていて、左側にインストゥルメンタル（楽器）トラック。けんもほろろにバキ！と定位が分けられています。不思議と嫌じゃありません。ホットであたたかい。分けられているのに、それぞれの線（パート：トラック）が放つ陽気が混じり合って空間を共有して飛び交っているようなあたたかい音像です。時代が時代なので当然かもしれませんが……その場所、その空間で、その機材をつかって、その人たちが、そういう演奏をする。録音物にはその条件や環境、人間の反射や躍動すべてが映り込みます。真似たくてもイミテーションにしかならない。ビートルズがあの時代にああいうやりかたで録った音。すべてのミュージシャンに愛嬌（Loving）をふりまく。ラブレターは私にもあなたにも向けられています。
コーラスでコード（低音）がⅥmから半音下がってそのまま順次下行をつづけるのかと思いきやすぐ主和音のほうへ気を取り直してしまいます。君と離れている主人公の気丈な様子と健気でぞっこんの愛を感じます。
青沼詩郎
The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク
『All My Loving』を収録したThe Beatlesのアルバム『With the Beatles』（1963）
参考書
ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)
ご寛容ください 拙演（YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『All My Loving（The Beatlesの曲）ギター弾き語りとハーモニカ』）