Goの衝撃
ラジオを聴いていたらびっくりしました。自分の曲(私のソロ音楽ユニット、bandshijinの配信中の楽曲『SO』)が流れたからです。
Tokyo FMで『坂本美雨のディアフレンズ』を聴いているときに流れたラジオCMでした。キットカットカカオ72%(ネスレ日本)のラジオCM。ナレーションが商品のおいしさを落ち着きのある「語り」でシンプルに訴求する内容のBGMにお使いいただいたのでした。
bandshijin『SO』はしっとり落ち着き感ある楽曲なので商品のイメージやターゲット層に沿うものがあったのかもしれません。ラジオ番組『ディアフレンズ』と、それから松任谷由実さんの『Yuming Chord』を私は普通によく聴くのですが、これらの放送を聴いていると普通にくだんのCMがbandshijin『SO』をバックに流れてくるのに出会う2023年の12月この頃(この記事の執筆時)。率直に嬉しい。ちなみにキットカットカカオ72%、甘さがほどよくカカオ感高らかで美味しいです。
上にあげたあたりのラジオ番組を聴いていると流れる圧倒的に強烈なインパクトあるラジオCMが、にしたんクリニック。一聴して歌声を聴いただけで声の主がわかるというのは凄みです、その主こそ郷ひろみさん。
にしたんクリニックTVCM「音符」篇 YouTube へのリンク
声で一発でわかるアーティストでぱっと浮かぶのはどなたでしょう。甲本ヒロトさんとか私はパっと浮かびます。この声、このアーティスト!という存在に私もなりたいところです。
郷ひろみさんは私がひんぱんに聴く1970年代くらいの音楽界でも活躍した存在でもありつつ、2020年代のいまでも現役でフルスピードで走っていらっしゃる。レジェンドというのか、もはや妖魔というのか、ヒトを超越した異彩さえ放っていらっしゃいます。頭が下がる思いです。
私の大好きな作詞作曲コンビ、橋本淳・筒美京平両氏の作品も歌っていらっしゃるので今日はそのひとつを聴きます。
郷ひろみ あなたがいたから僕がいたを聴く
走り抜けるスピード感あるボーカリズムです。カリスマ性を覚えます。スターの呼称にこれほどふさわしい人も稀でしょう。ヒトじゃなくて、気体とか、あるいは観念とかで実体がないんじゃないか、体はあっても触れられないんじゃないかとまで思わせます。神がかって突き抜けている。
編曲や演奏、サウンド、さすがです。耳をひいてやまないのがベース。これ、テューバか何かなのか?唇をすり抜けて震わせるような独特のアタック感があります。ボワ、ボフ、デュフ、なんといっていいのか、実際に音源をお聴きいただくのが一番でしょう。
図体最大級の管楽器でこの細かくキビキビした動きが出せるのか?(もちろん優れた奏者は出せると思いますが)とやんわりと疑問を検証するように聴いていると……これは、いわゆるベースギターの類に、ファズのような歪みをかけるエフェクトをほどこしたサウンドのように聴こえてきました。なるほど、キビキビしたリズム感や、時折うえのほうに上っていくプレイ(オカズ)やフレーズィングの特徴としてはやはり管楽器などではなく竿物のベースを思わせます。
トランペットもパラパラと機敏、あるいは伸ばす音価とハーモニーを添える……ストリングスは左のほうに高域パートを感じますがやはり動きがあって華があります。女声のBGVも入ってこれ全部入り、フルコースの様相です。郷さんという一等星を迎える万全の体制という感じ。左のほうではパカパカとコンガ。コンガの出す独特の緊張感あるサウンドが私は好きです。
リズムギターが埋もれんばかりの突出した攻勢のアレンジですが、まんなか〜左寄りあたりに疾走するリズムで伴走するエレキギターが妙脇役。ここぞのところで、コーラス系?のエフェクトをかけてコヨコヨピチョピチョと揺らせて潤わせたギターのフレーズが前面に出てきます。本当にバラエティ豊かな局面です。こんなに絢爛優美でもあるのに士気が高く無骨で骨張った攻勢のサウンド。筒美京平さん印を感じるサウンドメイキングです。ユニークな歌声の歌手を好んだという氏ですが、楽器のサウンドのキャラクターや存在感の演出にも入念……いえ、もはや執念を覚えます。
崩れかけの関係?
“あなたがいたから僕がいた たとえばふたりで喧嘩して 背中をむけたりしたけれど ふたりは危険をのりこえた 傷ついてもたえてゆける 素直なあなた 疲れた日は甘えたい僕なんだ 真心かさねて欲しいよ やさしく育てた愛だから 捨てたりできないふたりとも”(『あなたがいたから僕がいた』より、作詞:橋本淳)
ほとばしる歌唱とサウンドで有無をいわさず聴かされてしまいゴールテープを切られてしまうのですが、まじまじと歌の内容をどう咀嚼していいか、おや?と思う私もいます。
この歌、二人の関係がちょっと崩れかけたところから、二人の関係を賛美して回顧しているような趣を感じます。「たとえば」と前置きしつつ、実際に喧嘩したのかもしれませんね。仮定形というより例示であり、実際の事例を指し二人の間柄の奥行きを思わせます。
「あなたがいたから僕がいた」と、主題のフレーズが過去形で哀愁がただよいます。諦観もにじむ。“疲れた日は甘えたい僕なんだ”が指す主人公の態度こそが、ひょっとしたら喧嘩や諍いの原因をつくったのではないかと勘繰る私。主人公としては、ただあなたに甘えたかったし、あなたの器に抱擁してほしかったし、そのときは本当に疲れていてよりどころが欲しかった。でも、あなたには、その主人公の態度が許せないものだったり、間が悪かったり、「あなた」の心を主人公が汲んでいないがゆえにとってしまうデリカシーのなさや醜悪な甘えなのではないかと、「あなた」の眉間をピクつかせたり歪ませたりする原因になったのではないか……
そんな風にこの楽曲を読むと、完璧に思える一等星の郷ひろみさんの存在と、誰しも完璧たりえない人間の真実が折り重なったところに哀愁が生じているのではと気づかされます。
郷さんも完璧にみえるからこそ、その裏で常人離れした習慣をもっているのでしょう。その習慣って、凡百の「ヒト」にはありえない血の滲むような努力と思われかねない異常レベルのストイックなものだったりするのか……これは単に私がメディアから掬い取って勝手に生成した郷ひろみ像でしかありませんが……現実に郷ひろみさんは存在して今日もどこかで走っており、ライブなどでじかに触れることができる活躍を続けているのはまさに奇跡のようです。
青沼詩郎
『あなたがいたから僕がいた』を収録した郷ひろみのアルバム『街かどの神話』(1976)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『あなたがいたから僕がいた(郷ひろみの曲)ギター弾き語り』)