楽曲『美女と野獣』曲の名義、発表の概要

作詞:Howard Ashman、作曲:Alan Menken。日本語詞:湯川れい子。ウォルト・ディズニー制作のアニメ映画『美女と野獣(Beauty and the Beast)』(1991)挿入歌。

美女と野獣 ポプラの歌唱を聴く

ふれるとはかなく崩れてしまうメレンゲ菓子のような落雁のようなほろほろとした質感のポプラさんの声の存在感。言葉、息のお尻までデザインされ、繊細な解像度で歌っておられます。

ピッチ感に独特の苦みがあり、ほろっとせつない味わいです。わずかに低いのでしょうか。胸にはりつく粘度、エイジング感があります。時を越えて巡り合えた気分にさせる、心のフィルムに焼き付くドラマティックな歌声です。人生に数度は現像したいですね。

美女と野獣 アンジェラ・ランズベリーの歌唱を聴く

意外な声。言葉が家の中を転げまわっているみたいに生き生きしています。前後する、ゆらぎのあるリズム。言葉の緩急のメリハリが強い歌唱です。コミカルな声色で、たっぷり年を召した人物を思わせます。おばさんというのか、おばあさんというのか、そのくらいの人格です。

オケ、せりふ

複数の異なる言語に、共通のオケを使用します。ピアノの四分打ちがこんこんとやさしく布団をかぶせるよう。ストリングスパートがうるおい豊か。多彩なサウンドで、レイヤー豊かな映像を喚起します。ディズニーのファンタジー作品だという先入観が招く映像想起かわかりませんが……

慈愛に満ちたやさしいせりふが入り、エンディング。おやすみといいつつ、輝かしい明日、朝の訪れを告げる小鳥を想起させるようなピッコロのモチーフ。ドヴォルザークの“家路”が聴こえてきそうです。

ポット夫人の歌

参考Wikipedia>美女と野獣(1991年の映画)

楽曲『美女と野獣』は登場キャラクターの“ポット夫人(Mrs.Potts)”の歌唱です。“人間の姿はふくよかな体型の白髪の老婆”(引用Wikipedia>美女と野獣(1991年の映画))とあるので、歌唱が演じる声の印象のとおり、年を召した婦人の役なのですね。ポプラさんのほうはきわめて穏やか、アンジェラさんの歌唱はきびきびとした異なるキャラクターを想像させますから、歌い手の表現とはまさに人格の憑依であるのを思います。

ポット夫人について、“作中で最も有名なベルと野獣のダンスシーンで、アカデミー歌曲賞を受賞した主題歌『ビューティー・アンド・ザ・ビースト~美女と野獣』の歌い手を務めている。”(引用Wikipedia>美女と野獣(1991年の映画))とあります。やはり、作品を象徴するハイライトシーンに用いられた歌なのですね。胸が高鳴ります。

賞という箔がついた傑作曲『美女と野獣』の歌唱を担当したのが主人公のベルや野獣でないのがちょっと意外にも思えますが、たとえば『ピノキオ』の名曲『星に願いを(When You Wish Up On a Star)』にしても、ピノキオでなくコオロギのジミニー・クリケットが歌っています。ジミニー・クリケットの扱いは実際のところ、“ポット夫人”よりもいっそう主人公のピノキオに並ぶ大きいものなのかもしれません。

ポット夫人の歌を背景にベルと野獣がダンスするシーンに突入する(ダンスシーンに重なって歌が入る)いきさつは、実際に作品を観てのお楽しみですね。

ポプラさんの日本語版に“食器棚へお行き。もう寝る時間よ。(xx)”と入るせりふ。ポット夫人には息子“チップ(Chip Potts)”がいるようです。人間のときは6歳ほどの子供の姿だといいます。母親が“白髪の老婆”では、ちょっと年が離れすぎている気もしますが、このせりふはポット夫人がチップに向けてかけた言葉なのでしょうか。食器棚が「寝床」って、かわいいといいますか、いかにもおとぎの話という感じがしてほほえましいです。

ボーカルメロディ

図:『美女と野獣』ボーカルメロディの採譜例。おおらかなリズムのまとまりを反復する音形がやさしげで慈愛に満ちます。でも、跳躍が大胆なところもあって、肝が据わっていて絢爛優美なメロディです。
図:Bメロ(ブリッジ?)の採譜例。Aメロと同等の音形をふまえつつ、上への方向性を強調した順次進行がきれいな音形でAパートと対比します。そして、図中の段のお尻で全音(長二度)転調して上がり、新しい朝を望むような爽快感とカタルシスを迎える構造です。

青沼詩郎

ポプラ版、アンジェラ・ランズベリー版の『美女と野獣』を収録した『美女と野獣 オリジナル・サウンドトラック 英語版+日本語版』(2018)

『美女と野獣 MovieNEX アウターケース付き [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールド] [Blu-ray]』(2022)。『美女と野獣』本編をDVD、Blu-ray、スマホへのデジタルコピーで楽しめるパッケージ。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『美女と野獣 ピアノ弾き語り』)