オックス 僕は燃えているを聴く

作詞:橋本淳、作曲:筒美京平。オックスのシングル(1969)に収録。

戦隊ヒーローかあるいはロボットアニメか……勇壮な冒険物語がはじまるかと思わせるイントロが劇的です。チームのハーモニーが分厚い。

メロの甘くくすぐったくしおらしい歌唱。サビに向けて一気に熱量のスイッチを入れる対比が効きます。急激すぎるくらい。メロはどこか由紀さおりさんが歌った『夜明けのスキャット』を思い出させるほどにシンミリしています。

サビ頭でブレイクを利かせて、メロからサビに向けて急激に揺さぶった熱量の緩衝効果を狙うみたいです。最後のサビのフレーズ“たった一度の口づけに”の、つまる発音「っ」は演奏のブレイクとピッタリ合っています。最初のサビの“祈りはかない 恋ゆえに””いんのぉーーりはかなーいー”と歌っているみたいで、日本語でありつつも空耳が聴こえてきそうでもあります。音楽とのマリアージュによって、言葉が柔軟に声質を変えるさま、変幻自在です。筒美京平さんと橋本淳さんのコンビによる楽曲は、言葉を音楽が飲み込んでひとつになっている印象を受ける傑作が多いです。

“ほのおのように ほのおのように 僕のいのちは 燃えたのさ たった一度の 口づけに たった一度の 口づけに”(オックス『僕は燃えている』より、作詞:橋本淳)

言葉だけをみても、かなりシンプルです。楽曲が、いっきに駆け上がるようにサビに向かって熱量をまとうものですから、この音楽がこの言葉を呼び込んだととらえてよさそう。橋本淳さんと筒美京平さんの作品はおおむね曲先と思われます。

音形のリフレインにしたがって言葉が導かれ、そして音楽の熱量が一気に駆け上がるさまに、「燃える」というモチーフや観念のテーマがついてきたかのように思います。

極端で、急激。そして刹那く、短命。若い情愛、恋愛を思わせます。GS(グループ・サウンズ)印といってもいいのが、こういう恋愛のほんとうに端っこの情念を抽出して歌ったものだと私の固定観念がうなずくところです(もちろんGSもユニークで様々だと思いますが)。

現代のポップソングをみるに、もっと、パーソナルで個人的で、ディティールに富んでいて、そこまで情景や環境や境遇を絞ってしまうと一体だれが共感できるの?と思わせないか不安になるほどですが、案外そういう境遇の違いを抽象化してヒトは共感できるもので、そういうものを好む性分がこのオックスの『僕は燃えている』のような抽象度の高い恋の歌を聞かされても、具体性やディティールに欠けると感じてしまって、共感できない、没入できない、古臭いと感じるリスナー心情があったとしても無下に否定できるものではありません。

ただ、新旧のものを並列して、サブスクやYouTubeでメチャクチャな出会い方をして雑食に消化して得体の知れない新時代の感性を築いていくのも、現代の性(さが)なのだと思います。私は具体描写やその解像度の高い音楽も、『僕は燃えている』のような、情念だけが時間をこえて語りかけているみたい作品も、どちらも多分に好きであります。

青沼詩郎

参考Wikipedia>僕は燃えてる

参考歌詞サイト 歌ネット>僕は燃えている

『僕は燃えている』を収録した『オックス・コンプリート・コレクション』(2002)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『僕は燃えている(オックスの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)