僕のおもちゃ箱 加藤和彦 曲の名義、発表の概要
作詞:北山修、作曲:加藤和彦。加藤和彦のシングル、アルバム『ぼくのそばにおいでよ』(1969)に収録。
加藤和彦 僕のおもちゃ箱を聴く
ふわふわとした不思議な曲です。和声がふしぎ。そっちへ行くのか、という意外なほうへ聴き手の視線を誘導し……行かない。みたいな。ちょっと笑いを誘うウィットのあるトークを展開しながら小気味よいこじんまりとしたマジックを披露する手品師みたいです。
ズゥンと怪しげで極めて低く深い響きをもったピックベースと対照的にドラムスはブラシでパサっと軽い量感。コンプが多めに効いている印象でズシャーと派手な余韻の強さも感じます。
アコギのストラミングは12弦なのでしょうか、ワイドな響きで不思議な引力を強調します。ストリングスとホルンだかの類がなだらかな動きで壮麗な響きと厚みを出します。「おもちゃ箱」という身近でコンパクトなモチーフにもおもえますが、おとぎ話の雰囲気、メルヘンや何が詰まっているのかわからないわくわくや可能性の広がりを同時に思わせます。つくづく不思議な雰囲気の曲です。かと思えばハーモニカの哀愁あるリズミカルなモチーフが歌詞のすきまにポツンと入ります。ジャンル不明な感じもなおさら「おもちゃ箱」らしくもありますし、迷宮のようでもあります。
これが加藤和彦さんのソロとしてのデビュー曲だといいますから、もうなんといいますか開いた口がふさがらない気分といいますかそりゃ大物になるしこれがソロデビュー曲にできるというのはすでに大物だったのだろうなと謎の感慨に私を漬け込む勢いです。
赤い色味で上裸で写ったアルバムジャケット。ボリューミーな髪型が印象的で鮮烈です。装飾はなばなしいメルヘンの世界に誘う魔力を発揮しつつもどこにも隠れないし何も隠さないというノーガードぶりと奔放な野性の両方を感じさせます。
歌唱のまっすぐで、ちょっとフラット気味なロングトーンも存在感があります。あまりに「素の体裁」すぎて、こういう歌い手もかえって稀有です。魅せようとサービス心を出してしまってはこの歌にならないでしょう。純心にしたがって、ぼくのおもちゃばこを見るかい? と誘う少年の心なのか。手ぐすね引いている悪い高等な魔術師が奥にいそうな気もしますし、とにかく不思議で浮遊した風変わりな曲です。内臓がどこかに消えてしまった気分。なんて乙女心をくすぐるセンスなのか。
青沼詩郎
『僕のおもちゃ箱』を収録した加藤和彦のアルバム『ぼくのそばにおいでよ』(1969)。ボーナストラック付きの“+2”はデビュー50周年、生誕70周年のリイシュー(2017)。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『僕のおもちゃ箱(加藤和彦の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)