6月の歌 曽我部恵一 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:曽我部恵一。曽我部恵一のシングル、アルバム『超越的漫画』(2013)に収録。

曽我部恵一 6月の歌を聴く

カップリングの『コーヒーとアップルパイ』についても共通した感慨があるのですが、深い深いところからあがってくるボーカルの天性、いえそんな恵まれた特権みたいなものから来るイメージのものでない、日常で研がれ、磨かれ続けたものからくるボーカルの深みを私に印象づけます。これ以上なく柔和な歌唱なのですが、深く、圧倒的な質量なのです。そうだよ、これだよ、と。私はこういう演奏が聴きたいのだとうなずきます。

アコギ、ベース、ドラムスの骨格とボーカル。これ以上になにがいるでしょうか。パシっと点を決めるドラムスの引き締まった音色。ベースはウッドベースのような深みと、アタックから減衰までの自然なニュアンスを感じますが実際はエレキなのかなんなのでしょう。オルガンが奥ゆかしく漂ってきて午後の陽射しみたいな柔らかい福音を添えます。名脇役はシェーカーでしょうか。あるいはスーパーやコンビニのビニル袋をリズミカルに恒常的にたわませたような軽い、「さわさわ」とそよぐようなサウンドです。サビでボーカルがダブルになります。メロの柔らかさに輪をかけてさらにやさしくなるような歌唱です。

文庫本、カレーライス、ギター、ミルクコーヒー、新しいシャツ。生活と余白そのものを象徴するような名詞が随所を的確にピン留めしていきます。心の豊かさを奏でる生活、その伴走を努めてくれるモノたちです。カレーが、文庫本が、ギターが、ミルクコーヒーが、新しいシャツが私の手の届くところにあってよかったと思うのです。

ありがとうとか、直接的に感謝を述べる語彙を用いているわけではないのですが、根底に慈愛を感じます。6月という時期が、その慈愛が楽曲『6月の歌』として噴出する波長とたまたま合致しただけのようなさりげなさがあります。だからこそ、聴き手も素直な心で、その慈愛を述べる歌に耳を傾け、心を委ねることができるのです。「私服」の観念を思わせます。この世で一番かっこいい身なりです。

青沼詩郎

曽我部恵一 公式サイトへのリンク

参考Wikipedia>曽我部恵一

参考歌詞サイト プチリリ>6月の歌

オフィシャルチャンネルが公開するビデオ

曽我部恵一 – 6月の歌 [Official Video] YouTubeへのリンク

オフィシャルチャンネルが公開する、『6月の歌』のビデオ。曽我部さんがギター1本で津々浦々(?)を演奏して巡る様子を描きます。曲名の通り、「6月」のライブの時の道中や演奏の様子を編集したのでしょうか? 映像を見ると和む気持ちにもなりますし、曽我部さんにとって歌が、演奏が日常として連綿と続いている深みをつくづく思いました。ああ、そうだよ、そういうことだよね、と……やさしい音楽・やさしい曲なのですが、この『6月の歌』の曽我部さんの歌の深みはつまり、シンプルにこの映像が描いているまんまのことなんだと心底実感、敬服です。

曽我部恵一のシングル『6月の歌』(2013)

『6月の歌』を収録した曽我部恵一のアルバム『超越的漫画』(2013)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『6月の歌(曽我部恵一の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)