さわやかです。小沢さんのカジュアルな声の個性はきわめつけ。はりつくような輪郭の明瞭さがあります。漫画のようにくっきりしていて見やすい。非常に好きな声です。
自由に飛んでいってしまいそうな優雅でおおらかな歌メロディ。支えるベースの刻みが非常に対照的で細かいです。この楽曲のシックスティーンのグルーヴ感を担う最重要パートだと思います。楽曲のなかで2回ほど、ベースがハダカっぽくなるところが耳をひきますね。
終始、ハープがかきまわす、なんと絢爛なことか。ブラス・ホーンとストリングス、ハープだけで楽団が成立しているのではないかと思わせるほど印象をします。たまに、アコギとピアノとオルガンもいたかしらという感じ。
ドラムスのサウンドは非常にかろやか。ハイハットやスネアの、楽器自体の軽い個性がよく出ています。キックのパターンなどはかなりシンプルでしょうか? ベースがめちゃ細かく刻んでいるので、一緒になって細かく踏んだら台無しかもなので塩梅が絶妙です。
クラヴェスのようなものが終始いるでしょうか。拍子木というやつです。チコ、チコ、と短くきれの良く愛嬌あるサウンドでベーシックにアクセントを添えます。個人的にはドラムスより耳をひくくらい、楽曲のかわいさの演出に重要だと感じます。
フルートのドライな音像がシマっていて見事です。フルートの登場は「小沢さんじるし」といった印象を私は持っており、本作が収録されたアルバム『LIFE』収録曲『ラブリー』でもおいしいところを占める、決してベーシックではないが楽曲の思い出のハイライトを彩る重要パートです。蛇足ですが、私もフルートを自宅録音で収録するのにチャレンジしたことがありますが、とても音がまわりやすくてドライな音像で収録するのに難儀した覚えがあります。
楽曲の構成が複雑とかいったことはないのですが、7分に届きそうななかなか長大なサイズはサビが基本16×2=32小節、つまり「ふたまわし」しているところに理由がありそうです。聴いていてもあっという間にすぎてしまう7分間。爽やかです。
金管は16分リズムがよろこびと躍動にみちています。サンバのような、海外の音楽スタイルを感じるところでもあり、楽曲の主たるモチーフの「旅」をおもわせます。
深淵な観念「宇宙」までもモチーフとしてでてきますが、固有名詞「東京タワー」も登場。「摩天楼」は東京タワーの言い換えかと最初思いましたが、空港で主人公は君を見送ったシーンを描いているのかもしれないと思うと、どこか外国の高層タワーのことをいっているのかもしれません。世界中に、その当地なりの摩天楼があるでしょう。都市から都市への旅を思わせます。小沢さん自身や小沢さんの楽曲について回る重要なモチーフやイメージのひとつこそが「都市」かもしれません。
都市から都市、街から街へと、ハガキや手紙の象徴する「ことば」、思念や意思のうつわとしての僕や君といった人間が行き交います。
青沼詩郎
『ぼくらが旅に出る理由』を収録した小沢健二のアルバム『LIFE』(1994)