歌本のなかにちいさい秋をみつけてしまった
歌本「歌はともだち」(教育芸術社)をめくっていたら、季節のたよりをみつけてしまった。
サトウハチロー作詞、中田喜直作曲の『ちいさい秋みつけた』。
譜面からえも言われぬ美しさが漂う。季節も今に合っている。…もう冬になってしまけれど、場所によってはきれいな紅葉が見られるだろう。桜は寒い地域が遅く咲く。紅葉は、寒い地域が早い。
歌詞
“誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが みつけた
ちいさい秋 ちいさい秋 ちいさい秋 みつけた”
(『ちいさい秋みつけた』より、作詞:サトウハチロー)
誰かさんとは。私自身か。この歌を聴いているあなたか。あるいは自然そのものを擬人化しているのかもしれない。
“ちいさい秋”は私やあなたの目の前にきっとある。何気ない、些細な季節の変化を感じさせる何か。たとえば、温暖な季節にずっと着てきた半袖に不適切を覚えた朝。その瞬間が“ちいさい秋”かもしれない。その朝から私は・あなたは長袖の着衣で出かけて行くようになるかもしれない。街の人々の恰好を見て、また別の“誰かさん”が“ちいさい秋”をみつけるかもしれない。
“よんでる口笛 もずの声”
“わずかなすきから 秋の風”
“はぜの葉あかくて 入日色”
(『ちいさい秋みつけた』より、作詞:サトウハチロー)
歌に描かれた情景。私のみつけたどの秋よりもずっと詩的。
もずってどんな鳥だろう。秋に鳴く鳥なのだろうか。
風通しの良さが「快適さ」から、「寒さ」に変わる瞬間がきっとある。
「はぜの葉」の色を想像する。入日色というと夕方、日が沈むときの空と太陽の色だろうか。葉っぱがその色を宿す瞬間を目撃して、秋を感じるのか。
うつろいの音景
歌詞を短調の旋律が紡ぐ。詩だけ読んで、これほど物悲しく、肌寒さがしんと身にしみる気持ちになるだろうか。ホ短調だけれど、ときおり平行調のト長調らしい動きが交じる。夏〜秋〜冬のうつろいを感じる音の風景。
順次、跳躍、同音連打。音程の進行パターン、リズム形が豊か。季節の自然の変化に見出すような秩序めいた歌いやすさ、美しいメロディ。中田喜直作品は私が音大生だった頃にも学んだ。もう、大分忘れている。全部復習したくなってきた。
青沼詩郎
ボニージャックス『胸に響くサトウハチロー作品集』(1998)
ご笑覧ください 拙カバー
青沼詩郎Facebookより
“歌本をめくっていてCメロ譜からただよう美しさが目にとまりました。作詞:サトウハチロー、作曲: 中田 喜直。リズム形や音程の移ろいが豊かできれい。秋を感じるささやかな情景の歌詞を物悲しく響かせる短調がタマラナイ。最近私は『ゲゲゲの鬼太郎』(作詞:水木しげる、作曲:いずみたく)、くるり『益荒男さん』(作詞・作曲:岸田繁)などに触れて短調がマイブーム。季節の同調もあり余計にいいなと思いました。もう冬も近い。NHK『秋の祭典』(1955)のために作曲され、伴久美子(当時13歳くらい?)が歌いました。のちに『サトウハチロー童謡集』(1962、LPレコード)にボニージャックスによる美しいハーモニーが収録されました。”
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