マグロ病とピンク組

マグロは泳いでいないと死ぬという説を聞いたことがあります。誰がいったのか、いつ初めて聞いたのか記憶にありません。

ところで、常に動いていないと死ぬのじゃないかと思わせるほどに、いろんな人とパイプを築き、常になにか言い出したものごとを進めている人に出会うことがあります。

地域にもそういう人が一人や二人、いえあるいはもっといるようで、案外「マグロ病」の人は多いのかもしれません。それって病気? 普遍だし正常では、とも思います。

そう、あるとき、動き続けることが自分の特徴でありその精神衛生上好ましいことを表現して、つまり活発な人が自分のことを表現して「マグロ病」だと言うのに出会ったことがあります。

そうか、動き続けていたい性分のことを「マグロ病」というのだなと理解・認知した瞬間でした。

一般的にいう言葉なのかは分かりませんが、なるほどなという気もします。マグロは遠泳魚(なんて言葉あります?「遠洋漁業」と混ざってる?)であり、つまり長い距離を安定したパフォーマンスで泳ぎ続ける習性の魚であり、そうした魚はおおむね赤身であるといいます。

鯛や鱸のような「ハンター」タイプのお魚は瞬発力重視で、刹那に獲物を狩り食料を得ることで命を繋ぐ種でありおおむね白身です。瞬間的な出力と同等の運動強度を長く持続するのには向かないそうで、ぐうたらして見えるけど、ターゲットが油断する一瞬に目から火花が出そうな速さで泳ぐのです。

ヒトにもそういう人、しばしばいるのではないでしょうか。そういう人はなんだろう、タイ病とかスズキ病ですか? もっとほかにも白身でハンター気質の魚がいるでしょう。なんでも病気にしてしまうのもどうかと思います。病気ではない。つまり普通……というか健常です。それがその人(その種、個体)の健やかさであり、恒常なのです。

かくいう私といえば……ピンク身くらいでしょうか。個人の振れ幅、特定の特徴の烙印を押すだけでは語れない性分、その人の人格の豊かさを考慮すると、だいたいの人が「どっち」とはいえないピンクなのでは。白黒つける……でなく、白赤つけるのも現実には無理がある場合も多いです。

あ、もうすぐ紅白ですね(執筆時・2023年12月初旬)。ピンク組とかあってもいいのかもしれません。ややこしいでしょうか。「組」になる必要ある?

パープル・シャドウズ 小さなスナックを聴く

そんな地域の「マグロ」なる活発な知人が最近、地域の喫茶店で主催した歌と演奏のイベントで、時代の匂いたちこめる私好みの歌を知ったので今日のこのブログではそれを聴きます。

作詞:牧ミエコ、作曲:今井久。パープル・シャドウズのシングル、アルバム『『小さなスナック / パープル・シャドウズ・アルバム』(1968)に収録。

軽くスウィングしたビートが洒脱です。歌声もずっと息が半分混じったような甘くささやくような軽さ・脱力があり、聴いていて非常に心地よいです。

また左トラックのリードギターがさりげないのですが非常に技巧が高い。テクニックが豊かで確かです。数多の歌手をそのままバックバンドとして支えられそう。ジャッキー吉川とブルー・コメッツのようなグループを思い出させもします。

左にはベースも定位しています。ピックベースでしょうか。リードギターはリードする時以外はふわっと存在感を消します。

右トラックにドラムス。ほぼ全編リムショット。右トラックにリズムギターもおり、2・4拍目でスチャッとブラッシングを置くストロークがスネアのリムショット完全一体化している印象です。小気味良いスウィング感を終始出し続ける因子のひとつでしょう。

真ん中でフワフワとオバケフィールを醸すのはギターのヴァイオリン奏法+ボトルネック奏法なのでしょうか。アタックの消えた柔和な、しかし高い音域で、ヒュワヒュワと立ち回ります。アタック感が希薄なのでボーカルの邪魔をしないのですが、動き自体は多く、あちらこちらにとらえどころなく出没する霊魂のようなトリッキーな動きでもあります。でも、ギターの指板の上を連続的に滑る様子を思わせるスムーズさも感じさせるフレーズィングです。やはり非常に高い演奏技術を感じます。

メインボーカルは中央ですが、ほぼ全編ユニゾンし、ごく限られたところだけ下ハモにいくボーカルが右側寄りに定位していてかなり存在感があります。スピーカーで聴いていると自然ですが、ヘッドフォンで聴くとこの右寄りのボーカルがメインに聴こえる質量感を放っています。

ブラスもストリングスもなく、鍵盤ものもない。要はほぼバンドのオリジナルメンバーで貫徹できるシンプルな編成なのですが、先に述べたように高い技巧を感じる楽器と歌唱の演奏で、こういったところがオトナの遊び場とかたまり場とか「ダメになる場所」としての「小さなスナック」という主題とあいまって絶妙なニオイを放っています。

コンパクトな編成で音楽的なリフレッシュを図っているのは転調でしょう。Dmのオリジナルキーから、最後のワンコーラスでE♭mへ新調のドミナント一発で半音上がります。ギターなどのハイフレット中心で演奏していれば難なく行ける転調です。ブラスやストリングスなどの大きなセクションを帯びていると、こうした身軽な動きに対してはいくぶん神経をつかってやる必要が出てくるでしょう。「小さなスナック」の主題を小さなバンドでこじんまりと嘆くように歌い・演奏するからこれが良いのです。

“僕が初めて 君と話した 赤いレンガの 小さなスナック 見つめる僕に ただうつむいて 何もこたえずはずかしそうで 抱きしめたかったよ 今日も一人で 待っているんだ 君に会えない さびしいスナック キャンドルライトに 面影ゆれる どこへ行ったのかわいい君よ 忘れられない”

(『小さなスナック』より、作詞:牧ミエコ)

小さなスナックの描写や、そこで見つける君の描写で本編が紡がれます。君の存在感が儚く、本当にいたんだろうかと思わせます。幽霊のような幻(まぼろし)感。中央付近でふわふわ漂うオバケギターが君の存在感に重なって思えます。

君はギターなど弾くようですが……もしかしたら主人公の自己投影なのかなとも想像します。幻の自分を見た気になっている。最初から主人公は小さなスナックに一人だったのではないでしょうか。酩酊して夢を見ているとかね。スナックや君の描写が映像的すぎるあまり、生気がないのです。

主人公の頭のなかに立ち上がった、肉体をもたない魂魄だけのまぼろし、混濁した記憶のザッピングが生み出した幻影です。……妄想しすぎ?

青沼詩郎

参考Wikipedia>小さなスナック

参考Wikipedia>パープル・シャドウズ

参考歌詞サイト 歌ネット>小さなスナック

オリジナル発売:1968年のファーストアルバムに追加収録した復刻盤『小さなスナック / パープル・シャドウズ・アルバム&モア』(1999)。『小さなスナック』を収録。

『小さなスナック』を収録した『パープル・シャドウズ スーパー・セレクション』(1999)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『小さなスナック(パープル・シャドウズの曲)ギター弾き語り』)