映像

Don’t Look Back In Anger (Official Video)

庭のような緑ある園。からっぽ椅子が孤独。乗用車のなかの男性数人、オアシスメンバーか。ベテラン男性が運転手。ノエルの色メガネがジョン・レノン風(そう、ジョンの代名詞といえる名曲『Imagine』のMVを思い出させます)。

洋邸につきます。高所からみおろす数人の女性。ウェーブした白いアフロ・ヘアの女性の見た目がインパクトあります。演奏するメンバー。プールの水上にドラムス、これも視覚的に映えますね。インターホンのモニタごしにも演奏する姿。意味深です。列をなす、白い衣装をまとった女性。プールのまわりに散って位置したメンバーのカット。庭にベッドをならべてそこに腰掛けてノエルが歌うカット。夜の庭? のカットも混じります。

先程のウェーブした頭髪の女性ほかが歌詞にあわせて口を動かしながらカメラに目線を送る。彼女たちが洋邸に吸い込まれていくカットも。夜の庭? のシーンでギターを弾くのをやめて椅子をはなれるノエル。車中に移動します。車のリア方面を向いてカメラに向かって口を動かします。洋邸の表に出た白い衣装の女性ら。ある人は画面に向かって手を振ります。車は出発。通りまで出てこちらを向いて立つ2人の女性が遠ざかります。

Oasis – Don’t Look Back In Anger (Live @ Fuji Rock Festival ’09)

「Oasis! Oasis!」と連呼する聴衆。「雨やんだね(※英語で)」といったノエルのMC。アコギのストロークでオープニング。曲をただちに特定した聴衆らが歓喜の声。ヴァースからもうシンガロングしています。4カポ、GポジションでCキーを弾くノエル。コーラスは聴衆に歌わせます。コーラスに入る直前に、聴衆がそのまま歌い続けるのを無言で促すかのように首を一瞬垂れ、お辞儀のような動作をみせるノエルに妙にグッときます。聴衆はハンズアップ。恍惚とした空気につつまれます。

2コーラス目のヴァースが優しい。横からせなかをまるめてモソっと歌うノエルをうつしたカット。照明がうしろからあたる彼の表情に影。2コーラス目のコーラスも聴衆に光をあてます。アコギと静かなタンバリンを伴奏に残響うるおうギターソロ。チョークアップ・ダウンで泣くようにトーンが揺れます。間奏明けの3コーラス目はノエルが歌います。やっぱり優しい。諭すような語りかけです。ラストの句の前のフェルマータ(停止)で先回りして歌詞を唱える聴衆。ノエルが続けます。“Don’t Look Back In Anger…Don’t Look Back In Anger…I Heard You Say…Least Not Today”はほぼウィスパリング。悟っているかのよう。“Good Bye”を言ってギターをおろすノエル。興奮と歓喜のままに聴衆が“Oasis! Oasis!”を「Look Back」します。

曲について

作詞・作曲:Noel Gallagher。Oasisのシングル(1996)、アルバム『 (What’s the Story) Morning Glory?』(1995)に収録。

Oasis『Don’t Look Back in Anger』を聴く

ピアノのストロークがダンダン。タテ型ピアノか。私室の匂う音色です。ジンジンと熱くやわらかく歪んだエレキギターがアルペジオ。こぼし、ひろげ、にじむようなトーンです。ドラムスはタカスカパコンと気持ち良い抜けと響き。タンバリンがコーラスでシックスティーン。バンドの音を中心に、ストリングスが壮麗さを加えます。アディショナル・エレキギターの同音チョーキングサウンドが狂おしい。ブリッジでチェロ・パートが雄弁します。詩情にあふれるトーンです。

コーラスの“So”の母音の響きに感動。aでもiやeでもない深みがあります。ギターソロは複数の弦の豊かな響きあいを生かした歪んだトーン。ラストのコーラスはシンガロングトラックで折り重なる綾を出したボーカル。そこを過ぎたあとの停止(フェルマータ)のあとの“But Don’t Look Back In Anger…Don’t Look Back In Anger…I Heard You Say…At Least Not Today”のやさしいボーカルが引き立ちます。ハーモニックなエレキギターのサスティン・トーン、ストリングスが余韻に協調。礼賛するかのよう。

雑感

メチャ昔から好きで聴いていた曲でした。私がOasisを聴き始めたのは高校生の頃。2002年〜くらいだったと思います。奇をてらわず、歪んだギターのまっすぐなバンドの音。リアムのダミ声。好きでした。当時より今のほうがノエル曲の良さがわかります。

コード進行について

ヴァースのコード進行

|Ⅰ Ⅴ|Ⅵm Ⅲm|Ⅳ Ⅴ|Ⅰ Ⅵm Ⅴ|

トニックで始まる。カノン進行を思わせます。おしりに|Ⅰ Ⅵm Ⅴ|の動き。ここで句調が整うように思います。

ブリッジのコード進行

|Ⅳ Ⅳm6|Ⅰ|Ⅳ Ⅳm6|Ⅰ|Ⅳ Ⅳm6|Ⅰ|

|Ⅴ|Ⅴ#dim|Ⅵm Ⅴ|Ⅳ|Ⅴ|Ⅴ|

スパイシーな匂いが増してきます。Ⅳm6。チェロでしょうか、低音弦パートが「Ⅳ→Ⅳm6→Ⅰ」のコード進行のところで「ⅰ→ⅱ→ⅲ(ド・レ・ミ)」と経過的に動きます。くぐもった不安を抜ける美しい響きです。

なんとなく6小節でまとまりを成しているところも妙技。

後半の6小節ではⅤ#dimを含める。副次調の響きでⅥmに刺すモーションです。Ⅵmに刺したら今度はバスをⅵ→ⅴ→ⅳと下行に転じさせます。Ⅵmを頂点に山なりの音形が構造のなかに見てとれます。

緊張のピークは最後の2小節のドミナントの引っ張りにあります。日本人好きするわかりやすいサビへの導入ではないでしょうか。いえ、世界中好きでしょ?(ちがう?)

コーラスのコード進行はヴァースに準じています(|Ⅰ Ⅴ|Ⅵm Ⅲm|Ⅳ Ⅴ|Ⅰ Ⅵm Ⅴ|)。馴染みの顔が戻ってくる安心感があります。

革命はベッドから

歌詞。英語非堪能の私ですがこれはわかります。革命はベッドから。ヴァース後、ブリッジ(というのか?)の部分です。“So I start a revolution from my bed”というフレーズ。この一句にやられます。涙がこみあげる。そう、だれでも、孤独なベッドからすべては始まるじゃないか。ちいさなちいさな、なんにもない、おれの部屋から。

ベッドは愛し合う場所でもあるし、安息の場でもあります。それも永遠ではありません。母親の胎内(あるいはそれ以前)からはじまって、やがては墓の下に結ぶ人生。ベッドですら、仮の棲家。一時を過ごすもろい板でしかないのです。でも、そこからロックンロールバンドだってなんだってはじまるのです。みんなお世話になっている。自らをケアする温床なのです。

ベッド・イン

ジョン・レノンとオノ・ヨーコの「ベッド・イン」という企てを思い出します(参考にどうぞ:JORNAL BG > 平和運動とは「肯定する力を信じる」ということ〜ベッド・イン50周年〜)。ノエルのソングライティングにこの「ベッド・イン」が関係しているか知りませんが、これを含めてロックの文脈を考えたほうが面白い。平和を訴える意図でジョンとヨーコは「ベッド・イン」をしたといいます。

「イン」というのは「集会」を意味するようです。人が集まり、交わるところに、何かが起こる、生まれる。それは静かで、凪いだ海のような空気をたずさえた集まりかもしれない。もちろん、激情の嵐かもしれません。何かの芽吹きがそこにあるのです。あるいは、種を植え付ける瞬間かもしれません。着床し、時間差で、いつしか観察可能なものを醸成するのです。もちろん、眠ったままのアイディアが永遠の夜の闇の中に今もいるのかも。ほとんどがそちらかもしれませんが。一縷の希望は世界に伝播するのです。

後記

どんな気持ちでノエルがこの曲を書いたか知りません。パーソナルで、矮小な場所からはじまった個の思念が世界に響いた事例と私は勝手に思っています。そこに猛烈に感動するのです。

小さな場所からはじまったかもしれませんが、実は小さく私的な場所に至るまでのプロセスに、数多の人間の思念がドリップされて含まれているのではないでしょうか。ノエルはそれを日常的な造作のようにギターひとつ声ひとつを通してさらりと表現してしまう。世界のイタコです。

音楽はシンプル。ですが苦味が効いています。言葉の載せ方、音符の割り付けはなかなか真似がむずかしい。つらつらつらっとしゃべるよう。一息のナチュラルさがあります。

青沼詩郎

Wikipedia > ドント・ルック・バック・イン・アンガー

『Don’t Look Back in Anger』を収録したOasisのセカンド・アルバム『What’s the Story) Morning Glory?』(1995)

『Don’t Look Back in Anger』を収録したOasisのベスト『Time Flies… 1994-2009』(2010)。シングルA面集。

ご笑覧ください 拙演