あっはっはっは、のアノ曲
私、この楽曲を昔テレビCMで知りました。
目立ったボーカルキャラクターが3人います。低い男声、高い男声、女声。低い男声と女声が入れ替わりながらヴァースをつむいで、コーラスのメインを高い方の男声がとります。張りがあって存在感のある男声。この声がヒューイさんでしょうか。
特異な存在感の低ボ
低い男声も存在感でいったらひけをとらないどころかぞっとするほどです。ボビー・オロゴンさんという方がテレビのバラエティ番組に出演し、独特の声質と、流暢ではないが主張のつよい独特のしゃべり方で笑いをとり、人気を博していた……そういうバラエティ番組を私も昔観ていたのを思い出しますが、そのボビー・オロゴンさんにも似た声質だと思ったのです。ボビーオロゴンさん(Wikiへ)はナイジェリア……アフリカ出身者ですね。邦人の中肉中背(としては小)な私には真似してもしきれない声……骨格から肉づき何から何まで違うのを思います。
関係ないのにボビー・オロゴンさんの話になってしまいました。『Don’t You Just Know It』のボーカルはジェリ・ホール、ボビー・マーシャン、ルーズヴェルト・ライトだそうです。ヒューイ・ピアノ・スミスはピアノ中心で、この曲ではメインで歌っていないのかもしれません。
コール・アンド・レスポンス
複数のボーカルによるコール&レスポンスが楽曲のキモで、ひとりでは出来ない曲でしょう。「輪」が面白いのです。このグループの運転手の口癖が「知らないのか?」だったところが楽曲の発想元になっているとのこと。
ブルー・ノート的な表情
コーラスのアッハッハッハ……ヘーエーオ、の「エー」のところが主和音にとっての♭ⅲ。つまりブルーノートになっています。この音程がくせになる。一緒に歌って気持ちよいのです。
……と聴こえたのですが、正直、半音下のF#に引っかけてからナチュラルG(E♭コードの第3音)にずり上げて到達させているからブルーノートに聴こえるのかもわかりません。厳密にはブルーノートは四分音……つまり普通の「♭」では下げすぎで、♭の半分の高さを下げるのがブルーノートだという説も聞き覚えがあります。いずれにせよ、クロマティックに嵌められないニュアンスが演奏、グループの輪に表れていて魅力なのです。12半音とか四分音とか区別するのがそもそも野暮?(いやいや、野暮とまでは言い過ぎか)
混声の歌い分け
メインボーカルは先述の低い男声がとったかと思えば女声に替わります。メロディが1オクターブ、グバっと上がる形になりますね。コーラスのレスポンスは下の男声は下のまま。上にも男声。オクターブのユニゾンでレスポンスしている格好です。
根音と第5音のベースの動き、エイトビートのグルーヴ
楽曲のほとんどの部分をトニック(E♭)の和音が占めます。根音と第5音でベースを動かして、エイトビートでプッシュしながら1・3拍目を強調する感じのリズムが肝要です。ベースが根音と第5音で動けば、コード自体はそのままひっぱってもこれだけ動きといいますか、ゆらめき・うねったグルーヴが出て「聴かせられる」のだと感心します。楽曲全体で登場するのはスリーコードですね。
ツボる口癖の歌
「知らないのか?」をやたら言っちゃう運転手……私の身近にいるとはいえませんが、世界のどこにいてもおかしくない気もします。本人は無自覚に、特定の表現をたびたび口走る。それを観察する側がおもしろがってネタにする。校長先生の朝礼の「あー、……」「えー、……」を数えるとすごい回数になったとか、くだらないかもしれませんがそういう「観察あるある」を思いつきます。決まり文句を本人が無自覚に重ね重ね使用していた場合、その口癖に気づいた観察者側は、そのことが気になって仕方なくなり、次第に「(また言った!)」と心のなかで笑をこらえきれなくなり吹き出してしまう。
「知らないのか?」ってのが君の口癖だってのを、君は知らないのか?(おなかがよじれるくらいに笑いをこらえて……)
そのことをこんなに痛快なコールアンドレスポンスで歌われたら、茶化されたと思って本人は怒るか、一緒に笑うか? 私は毎夜でも晩酌のアテにできそうな傑作だと思います。
青沼詩郎
参考歌詞サイト プチリリ> Don’t You Just Know It
『Don’t You Just Know It』を収録したHuey “Piano” Smith & His Clownsの『Having a Good Time』(オリジナル発売年:1959)