かまやつひろし『どうにかなるさ』
アコギの3拍子ストローク。ドン・シャン・シャン、ドン・シャン・シャン……というパターンが素地をつくります。
ベースはアコースティックベースでしょうか。ぐもん、どん、といったまるみのある量感があります。
ドラムスはブラシか。さわさわ終始鳴っている感じがします。
スライド・ギターが合いの手します。カントリーやブルースで見る横に寝かせて弾くタイプ(ラップスティールギター)のものでしょうか? 音程が迫り上がり・下りするポルタメントだけでなく、フワァと迫るように音量を立ち上がらせる表現が含まれているように思えます。高等で特殊な演奏技術といっていいかもしれません。ボリューム・ノブに小指を引っ掛けて、ボリュームを絞った状態でストローク後に音量大方向へ回す奏法がありますが、横に寝かせたラップ・スティール・ギターでもボリュームを立ち上がらせる奏法はあるのか?
オルガンがクワァー! っと欲しいと思えるところで気持ちよく立ち上がってきて妙です。
間奏ではオルガンとスライド・ギターの音色、それにオーバードライブさせた人の声?を集合させたような、泣き声のような不思議で存在感ある音。人の声にきこえるのはスティールギターの音域をこの瞬間に下げているからなのか、実際に人の声が入っているのかわかりません。
サビのシメの「どうにかなるさ」のフレーズの反唱はかまやつひろしの声のダブでしょう。ちょっとブルージーな音程です。
かまやつひろしの歌声は、低いところではこころが落ち着くあたたかみある声。高いところでは澄んでいて少年のようにキレイな声で、不器用な男風の容姿・キャラクターのイメージと裏腹に、表情に富みます。音程をこまかく移動させる、節回しのような表現で、ヨーデルみたいに一瞬、声を裏返らせるみたいな味付けをしています。演奏・歌唱の表現は器用で達者。
『ムッシュ・ファースト・ライヴ』(1978)収録
清らかに伸びていくムッシュのはつらつとした歌声が魅力です。タイトですっと奥に通っていく残響がライブ感。演奏もタイトでリズムのディバイドが精確で躍動したグルーヴが素晴らしい。バックグラウンド・ボーカルは楽器の演奏メンバーが兼ねているのでしょうか、真っすぐに伸び好感あふれる明瞭なコーラスです。オルガンが朗々と歌い、エレクトリック・ピアノがじわりと響きをにじませては軽やかに転げリズムを散らします。エンディングのボーカル・フェイクが胸熱。ムッシュのフォーキーで土着感ある歌唱が個性的で独創的です。
1974 One Step Festival かまやつひろし&オレンジ
冒頭のMCからステージ前の熱狂ぶりがうかがえます。客席の熱波が演奏メンバーに押し寄せたような揺らぎを感じます。確かな演奏の技量と生ものとしてのステージの味わいが同居した貴重なライブ音源。ミックス卓を通った直後の感じのドライな印象の音像です。
曲の名義など
作詞:山上路夫、作曲:かまやつひろし。かまやつひろしのシングル(1970)。
歌詞の好きなところ
“愛してくれた人も 一人いたよ 俺など忘れて 幸福つかめよ 一人でおれなら どうにかなるさ”(かまやつひろし『どうにかなるさ』より、作詞:山上路夫)
歌の舞台となる街で、主人公を愛した自覚がある人は、この歌を聴くことで、自分の愛が主人公に伝わっていたことを実感することができます。ですが、そのとき、主人公はその人の近くにはもういない。100通り1000通り10000通りの人生があったなら、二人で至る幸せもあったかもしれない。主人公は、あったかもしれない未来に背を向けて去っていきます。
どんな別れだったのか知りませんし、離れることが二人に最良だったのかもしれません。一緒につかむ幸せのために手を尽くしたとは言い難い実感が仮に二人、あるいはどちらかにあったとしても、実は未来は本人の希望どおりになっている……シビアかもしれませんが、なるべくしてなった顛末なのではないでしょうか。
主人公は、慣れた街を出ていきます。上京でしょうか。東京以外から東京へ、と決めつけるのも無粋です。具体的な地名はどこにも明かされていません。
主人公は変化をのぞむ性格のようです。慣れた街、慣れた仕事を遠くにやります。自分の身を離すことで。
飽きっぽいと誹ることもできるかもしれません。希求者であり、成長をのぞむ人です。変わり続ける中に変わらないものを見出す人かもしれません。特定の人とずっと一緒に歩み続けてつかむタイプの幸せには遠い人なのかもしれません。
後記
かまやつひろしの歌、大好きです。『なんとなく なんとなく』が私のお気に入りです。「なんとなく」というシンプルなモチーフの繰り返しで印象付ける、愛嬌と茶目っけある曲でした。こちらの『どうにかなるさ』は表面には自己犠牲のほろ苦さ漂いますが、「なんつーかさ、いろいろと飽きちゃったんだよね」なんて、仮に私が主人公と親しかったら居酒屋で楽屋トークみたいなことを話すでしょうか。人情味ある感じの主人公のキャラクターです。
メロもサビも、フレーズを「どうにかなるさ」で結ぶ。『なんとなく なんとなく』はその場でモチーフをリフレインする曲でした。『どうにかなるさ』は、距離を置いてからキメの句をします。メロ・サビごとに違う歌詞があって、でもその文末は定型句でシメるパターン。定型句に出会うまでに距離があるので『なんとなく なんとなく』よりは中庸なスピード感ですが、『どうにかなるさ』もやはりタイトル通りのメインのモチーフを繰り返すことで親近感を抱かせる意匠があります。
青沼詩郎
Monsieur Kamayatsu Forever サイトへのリンク
『どうにかなるさ』を収録した『アルバムNo.2/どうにかなるさ』(1971)
『ムッシュ・ファースト・ライヴ 』(1978)。「クロコダイル」は原宿のライブ・ハウスとのこと(参考サイト:TAKECHAS RECORDS)。
福島郡山で1974年におこなわれたフェス出演時のライブアルバム『1974 One Step Festival / かまやつひろし & オレンジ』(2019)
トータス松本と共演して歌った『どうにかなるさ』を収録したムッシュかまやつの古希記念アルバム『1939〜MONSIEUR(サンキュー・ムッシュ)』(2009)
ご笑覧ください 拙演