映像 MV すばらしい日々

高齢の男。空。十字架。メンバー。荒野。モノクロの画面。

メインボーカルの奥田民生らメンバーのまわりをカメラがぐるぐると回ります。メンバーをしっかりととらえつつも、背景がスピードをもって動きます。メンバーはおおむね同じ位置に立っているであろうにもかかわらず、常に画面に動きが出ます。

奥田民生が背負った十字架が意味深です。“UNICORN Good Dies”と書いてあるように見えます。映るのはごく一瞬です。字幕も一瞬出ます(語順が入れ替わっています)。この曲がリリースされた1993年頃のバンドの実状を自己表現しているのでしょうか。

曲の名義など

作詞・作曲:奥田民生。UNICORNのシングル、アルバム『SPRINGMAN』(1993)に収録。

UNICORN『すばらしい日々』を聴く

右のエレキギター、ドラムス、ベースがシンプルなダウンストロークで恒常なエイトビートを刻みます。

左のエレキギターは「ソーミファーシソミ……」と3和音にナインスを濁らせたリフを繰り返します。12弦ギターのような、輪郭がダブった音色です。

プワーっとBメロで立ち上がるオルガン。ちょっと孤独。まるみのある、愛嬌の音色です。

奥田民生ボーカルはメロではダブリングが効いています。妙に空虚な響きが魅力。サビでは空間にめいっぱい奥行きを出した残響です。幻想の雰囲気です。

歌詞を上ったあとの後奏が1分以上に及びます。「すばらしい日々」がずっと続くような気がします(それがどんな日々かはさておき)。

コード進行

メロはⅠとⅣmのみを繰り返します。BメロではⅤmとⅠを繰り返します。1コーラス目はこれらのコードのみです。AメロとBメロで、Ⅰの出てくるタイミングを先か後かで入れ替えて、タッグにするコードもⅣmとⅤmで入れ替えて、非常に絞ったコードのみで聴かせているのが妙です。ちなみにⅣmやⅤmは奥田民生の他の作曲にも頻出します。2回目のメロやサビで出てくるⅢ7もそうです。彼の「はんこ」みたいなものかもしれません。大衆性を損ねずに個性がにじんでいます。

2コーラス目のBメロには変化があります。“汗かいて”のところでⅢm、Ⅲ7、Ⅳと進み、サビに入るのです。Ⅲ7を聴くとⅥmに行きたくなりますが、それをせずⅣ。そのⅣからⅠへ進行。サビのはじまりです。

非常にシンプルなメロでしたが、サビのコード進行はドラマチックに転々とします。

(“素晴らしい日々だ……”のライン)|Ⅰ|Ⅳ|Ⅱ7|Ⅴ、Ⅴ/ⅳ|Ⅲ7|Ⅵm|Ⅲ7|Ⅵm、Ⅳ|

(“君は僕を……”のライン)|Ⅰ|Ⅳ|Ⅱ7|Ⅴ、Ⅴ/ⅳ|Ⅲ7|Ⅵm、Ⅰ7|Ⅶ7、Ⅲ7|Ⅵm|

サビ前や、サビ間の折り返しのピリオドにⅣを用いてⅠに進行させています。予定調和っぽくなくてカッコ良いです

歌のメロディ

サビのメロディ。

軽快なテンポで進む曲において、4分音符を主体にした動きです。“すばら「しい」”で下げた音形。“ひびだ”で上げる音形。この上げ下げの音形の反復がうつくしい。続いて、“ち「から」”で下げ、“あふれ”で上げます。

“ちか「ら」”ではⅳシャープ。副次調から借りた音です。コードがⅢ7(G#7)のときも頻繁にⅴシャープがメロディに。ⅳ#やⅴ#など、副次調の音がメロディにあらわれるとその瞬間スっとします。浮遊、清涼のような感覚を覚えます。

“きみは「ぼくを」”で、スコーンと跳躍して音程を6度上げます。“わすれ「るから」”でもまた6度跳躍上げ。前半8小節とは、反復する音形をかえていますし、その飛距離も遠くして、動きが大きくなっています。メロディがどんどん劇的になっていきます。

“すぐにきみにあいにいける”では細かい同音連打もみせています。ここまで、4分音符を主体に、反復の音形、その上げ下げや飛距離で演出してきたのに、ここに来て細かいストローク(8分音符)をメロディに混ぜました。独創が光るリズム塩梅です。

このとき、音程にもいろいろ起こっていて、Ⅰ7(E7)を用いたことによってフラットしたⅶ(レ)があらわれます。“すぐにきみにあいにいける”のおよそ2小節間は、ピアノの鍵盤上でいうと白いド〜白いレの鍵盤のあいだをうろうろするメロディとみてよいのではないでしょうか。減3度(実質、長2度の距離に相当)におさまる、狭い範囲です。なんともブルージーなアティテュードではないでしょうか。

シ#〜レ……減3度の範囲をうろうろする最後のメロディ。

歌詞

“僕らは離れ離れ たまに会っても話題がない 一緒にいたいけれど とにかく時間が足りない 人がいないとこに行こう 休みが取れたら”(UNICORN『すばらしい日々』より、作詞・作曲:奥田民生)

休暇を取って逃避したい……毎日目の前にしている社会、現実から離れたところに身をおきたいという気持ちはよくわかります。でも私は、実際に休みを取って、ほんとうに遠くに、人の少ないところに行けたためしはあんまりないです。いえ、これを読んでいるあなたがどうかわかりません。希望通りに休みをとって、希望通りのところに本当に行っているよという人もいれば、「心では思うんだけどなかなかそうはいかないんだよなぁ……」なんて感じている人もいるかもしれません。

奥田民生はじめユニコーンのメンバーは私にとってスターですが、こういう、さも「普通の人っぽい」ことを歌詞に含ませているのが狂おしい魅力です。『ヒゲとボイン』の主人公も、どこにでもいそうな働く男の印象だったと私は記憶しています。

次のラインが「さも普通の人っぽいことを言う」の主張をさらに強化してくれます。

いつの間にか僕らも 若いつもりが年をとった 暗い話にばかり やたら詳しくなったもんだ それぞれ二人 忙しく 汗かいて”(UNICORN『すばらしい日々』より、作詞・作曲:奥田民生)

私がユニコーンメンバーのことを憧れの対象として見過ぎているのかもしれません。彼らとて、ミュージシャンという特殊な職業とはいえ、ふつうの働く男のあつまりなのかもしれません。少なくとも、その一面を持っているはずです。

もちろん、歌の主人公を現実の著作者たちに重ねすぎることを私は良しとしません。これはあくまで歌の中の世界のことなのです。でも、どこまでもその外側にまで、地続きに感じられる……それはユニコーンの楽曲が大衆性を独自の切り口で提示している証だと思います。

サビの歌詞

素晴らしい日々だ 力溢れ 全てを捨てて僕は生きてる”(UNICORN『すばらしい日々』より、作詞・作曲:奥田民生)

懐かしい歌も 笑い顔も 全てを捨てて僕は生きてる”(UNICORN『すばらしい日々』より、作詞・作曲:奥田民生)

1回目サビと間奏明けの2サビで少し変わります。

いずれにしても、“全てを捨てて僕は生きてる”というところにズシリと質量を感じます。

このラインに、私は「休みをとりたいけどとれない、自分の人生も満足に導けない情けない自分」を重ねることもできます。でも、「然るべき代償を引き渡し、本当に大事なものだけを持って生きるストイックな理想像」にもとれます。「全てを捨てて僕は生きてる」という表現には二重性があります。あるいはそれ以上でしょうか。多面体、万華鏡のような言葉です。象徴であり偶像であると同時に、鏡に映った自分自身のようでもあるのです。

1回目のサビでは“力溢れ”と歌いつつも、2回目のサビでは“それでも君を思い出せば そんな時は何もせずに眠る 眠る”とも歌っています。“素晴らしい日々だ”は、理想の遂行に厳しく、高い能力を持ち合わせている全能者の感慨にも聴こえますが、同時に皮肉にも聞こえます。思い通りにならない社会、歯痒くもどかしい現実、力なき自分を目の当たりにしたときにつぶやく“素晴らしい日々だ”……そんな風にも聴こえるのです。

朝も夜も 歌いながら 時々はぼんやり考える 君は僕を忘れるから そうすればもうすぐに君に会いに行ける”(UNICORN『すばらしい日々』より、作詞・作曲:奥田民生)

君による僕の忘却が、僕に君に会いに行くための切符をくれる……そんなような状況って、どんなだろうと思います。意味深ですし、無意味の響きも持っています。奥田民生らしいとも思います。深く考えずに放った言葉……とは口が曲がってもいえませんが……なんというのか、この日々がすばらしいかすばらしくないかなんてわからないが、ただただ現実のバッターボックスに入って、飛んできた球に対してバットを振った……そんな言葉に思えます。

むすびに

モチーフの音程を変えながらリズム形を反復していく手法は西洋音楽っぽいです。でも、Ⅳ→Ⅰのカデンツはなんだかブルースとかロックンロールの血を感じる決まり手です(もちろんⅣ→Ⅰは西洋音楽にもあるカデンツですが)。またサビのおしまいのところのメロディ(“そうすればもうすぐに君に会いに行ける”)の、狭い範囲をぐにぐにと縫うような音程のはこびもブルージー……悲哀を感じます。

平凡一般な壮年者にも、あるいは著作者自身の鏡のようにも感じられる主人公が、共感と独創を両立しています。この曲を突きつけて解散! なんて、カッコ良過ぎてちょっと待ってくれよと思います。

そうそう、MVのラストでメンバーが原野の丘のような斜面を下りながら、バラバラの方向に散開していく様子。当時のユニコーンの実状と無関係とは思えない表現でした。

色褪せないのは、はじめからモノクロだから? いえ、鑑賞者が好きな色を見出せるから……俺も好きにやるから、お前も好きにやれよ……ユニコーンの態度にそんな教えを深読みしてしまうのは、多分私がそう言われたいからなんでしょうね。あなたも、どうぞご達者で……。

青沼詩郎

UNICORN 公式サイトへのリンク

『すばらしい日々』を収録したUNICORNのアルバム『SPRINGMAN』(オリジナル発売:1993年)

ご笑覧ください 拙演