視座の立体と激励

何かのメディアで断片的に見聞きした、誰かのカバーによる「ファイト! 闘う君の歌を……」のサビが印象的で良いメロディだと記憶していました。

「ファイト!」のかけ声で始まり、おおむね2小節単位のモチーフの反復からなるサビが親しみやすい一方、6分割のグルーヴで詰め込まれるリズムの細かさはその記憶しやすい個性に親しみやすいと油断した人に対し鋭いディスリスペクトの反撃をぶちかますラップバトルのように闘う姿勢が勇ましいです。

1拍を6分割しているので、もし仮に1小節内の分割の目盛りすべてに字脚をあてがえば、6分割×4拍で(たった1小節のなかで)24の母音を持つことになります。さすがにそれはやりすぎですし、実際にそんな小節はなく、歌詞の文法上の切れ目にしたがって、フレーズとフレーズの間にはちゃんと間がありそこが緩衝地帯のようにリスナーの耳も息を吸うタイミングとして機能します。それにしてもこの字数の圧倒的な物量、一気に流れ込むときの勢いやスピード感は圧倒的。サビの魅力度からこの曲のカバーにチャレンジしたいと思ったりカラオケで歌ってみたいと思ったりする人はきっと多いと想像しますが、上記の特徴がハードルになって「意外と難しいじゃないか!」と思い直すこともしばしばあるのではないでしょうか?

フレーズ毎にサーキットトレーニングの笛が鳴るみたいな緊張感をもってなだれこむ状況描写やそれに反射・反応する主人公の感慨の情報量、質感の細かさや思想の鋭さが本曲の特長であると同時に、広く中島みゆきさん作品の特長であるようにも思います。

またそのせきこむようなリズムの自由かつ破調かつ革新的な闘う姿勢は、どうやら吉田拓郎さんの作風や結果的にあらわれる作品の特長と通ずる・重なる部分が多大にあるようで、吉田拓郎さんもこの楽曲『ファイト!』をコンサートでカバーします。この作品に、自分の作品との間のシンパシーを実際吉田拓郎さん自身も感じるところがあったのか、そのカバーを序奏(きっかけ)として、吉田さんは中島さんに楽曲提供を依頼します。その経緯の末に生まれた楽曲が吉田拓郎さんの『永遠の嘘をついてくれ』。こちらもまた中島みゆきさんが見事に吉田拓郎さんの作風をイタコのように憑依させたような「吉田拓郎然」としたすばらしい作なのですが、ここまで述べたようにそもそもの中島さんの作品にある特長もふまえて思い直せば、何も「吉田拓郎像」をごまをするみたく降霊させずとも、「もともと中島みゆきのなかにある、吉田拓郎と偶然にも重なる部分」のGainのツマミをぐいっと上げてプレゼンスの輝きを添えてやれば自然に溢れ出てきた思念の結晶なのかもしれない、と改めて思います。

『ファイト!』は地方都市出身者で、上京しようとする者とそこに残ろうとする者のあつれきや想いのせめぎあいを描く部分もあり、中島さんの発想する架空の歌のなかの人格が克明に具体的に描かれもしますが、そうした具体と、サビでの闘う者へ寄せる賛辞や激励の普遍が強いコントラスト(対比)となって性質の異なるセクションそれぞれを相乗させて輝かせます。人間の描写のかたわら「魚たち」など、自然物に寄せる眼差しから得る観察者の主観的な感慨も描かれており、1曲のなかに豊かな着眼点と想像の軌道の振れ幅、尺度がフレーミングされています。

初めてこの楽曲をフルサイズで聴いたとき、6分を超え7分に迫る曲尺を正直長いと思いましたし恐れ慄きましたが、そうした着眼の点ならぬ帯あるいは面あるいは立体的性質が自然に導いたサイズなのだと今になって理解が及びます。

ちなみにアングラすぎる?!とも思えるイントロのまるはだかのドラムからはじまるアレンジに、オリジナルアルバムに収録されているバージョンは違うのでは(この『ファイト!』のアレンジは複数あるうちの一つなのではないか)? と勝手に仮説を思いましたが、取り寄せて聴いてみるとオリジナルアルバム『予感』に収録されているオリジナルアレンジもシングルカット(1994)のものと同一でした(本来シングルカットとはそういう意味ですよね)。アングラすぎる?!かと思ったアレンジもふくめて、やはりこの楽曲にふさわしい、はみださんばかりなのに同時に洗練・最適化された、必要十分な意匠だったのです。

ファイト! 中島みゆき 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:中島みゆき。編曲:井上堯之。中島みゆきのアルバム『予感』(1983)に収録。1994年『空と君のあいだに/ファイト!』としてシングルカット。

中島みゆき ファイト!(配信のシングル)を聴く

雄弁すぎるほどのピアノのストローク、ストリングス、すべての人生をねぎらうエレキギターが感情の昂りを支え、寄り添って走ります。楽曲の後半にむけて音数が満たされて行き、最後の一声「ファイト!」からフェイドアウトのエンディングへ。闘いの歴史はフレームの外に及んで続くのでしょう。

“冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ”(『ファイト!』より、作詞・作曲:中島みゆき)のフレーズでサビが結ばれますが、途中のメロで描写される「魚たち」は、人間の群集の比喩なのだと気づきます。現実の姿の比喩であると同時に、魚たちのように自由でありたいとの願いも後半のコーラス「国境をこえてゆく」……と描かれます。

中島さんのリードボーカルは淡々としかし「ファイト!」に寄せる確かなあたたかみもあります。音質的に、コーラスがうっすらかかったようなシュワシュワっとした加工がうっすらほどこされているように感じます。自分の肉体をすこしだけ離れたところから、しかしぴったりと一定の距離を保ってずっと見守りつづける想像上の友の視点から主題の「ファイト!」を唱えているような意匠に感じます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>空と君のあいだに/ファイト!予感 (中島みゆきのアルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>ファイト!

中島みゆき オフィシャルサイトへのリンク

『ファイト!』を収録した中島みゆきのアルバム『予感』(1983)