曲についての概要など
作詞:阿久悠、作曲・編曲:三木たかし。ザ・バーズ(The Byrds)のシングル(1976)。
ふり向くな君は美しいを聴く
歌謡曲……一時代を築くアイドル歌手のソロ作品のようなフォーマットを感じるのですが、合唱なのですね。女声パートと男声パートがオクターブ違いの音域でかけあいます。
けっこうメロディがこまかく動いたり跳躍したりもしますから、合唱向きの曲を外れる意匠といいますか……シンプルな動きと音価のあるフレーズでたっぷりと複数の声の集合の壮麗な響きを聴かせる……という方向の曲とは違います。勇敢で活動的な印象です。
イントロや曲間の、何かが始まる感じがわくわく、臨場感を高めます。ハーフテンポといいますか、スネアを打たないようにして離陸前のならし運転のようなビート。エレキギターがするどく空間をつん割きます。メロ・サビでスネアが2・4(拍目)。ガツっとかためでタイトな乾いたサウンドのスネアがカッコ良い。疾走する曲調を引き立てます。
作詞が阿久悠さん、作曲が三木たかしさん。時の人、的な大定番の職業作家ではないでしょうか。高校サッカーのテーマソング(全国高等学校サッカー選手権大会・大会歌)なのですね。私は1970年代くらいの歌をよく漁っています。高校サッカーを鑑賞したり、あるいは学生時代にそれに参加したりする当事者方面からこの曲を知ったのでなく、単に音楽愛好とミーハー心の至りで、ネット上でたまたまこの楽曲を認知しました。
阿久悠さんって、絶対コレだよな!と思い出す特定の楽曲が、意外とパっと思いつきません。「この曲、なんかいいな」と惹かれてみると、作家は阿久悠さんだった、これもあれも阿久悠さんなのか、と気づくことが多いです。それでも強いてひとつ私の記憶に強く焼き付くのは『地平を駈ける獅子を見た』。西武ライオンズの球団歌で、松崎しげるさんのカリスマ性を強く印象づけます。『ふり向くな君は美しい』にせよ、スポーツと結びつきますね。勇ましさ、活動的な印象をもたらすことが重要なミッションとされるときに頼むべき作詞家が阿久悠さんなのかもしれません。
三木たかしさんの作曲で私がひとつ選ぶなら『アンパンマンのマーチ』。Bメロのところの転々とした副次調の和声の末にサビに至る高揚感のすさまじさが希少です。
あさってな方向の話を重ねて恐縮ですが、『ふり向くな君は美しい』をソロ歌手が歌ったらまたかなり印象が違うだろうなと……個人的には『およげ!たいやきくん』を唄った子門真人さんあたりの歌唱で『ふり向くな君は美しい』を聴く「もしも」があったらなと思います。『ガッチャマンの歌』ばりに、ヒーローじみた勇ましさを発揮することうけあいかと……。
詞と構造をみる
B始まり的なフック
“うつ向くなよ ふり向くなよ 君は 美しい 戦いに敗れても 君は美しい
今ここに青春を刻んだと グランドの土を 手にとれば 誰も涙を笑わないだろう 誰も拍手を 惜しまないだろう また逢おう いつの日か また逢おう いつの日か 君のその顔を 忘れない”
(『ふり向くな君は美しい』より、作詞:阿久悠)
サビはじまり、あるいはBメロはじまりのような趣があります。「今ここに青春を…」のところがAメロっぽいです。そのまま「また逢おう…」のところがサビだとすると、冒頭の「うつ向くなよ」…はBメロ? 起伏にいくぶん落ち着きのあるメロディをもつ「今ここに…」のところが、イントロのすぐ後に来ないのです。楽曲構成的にヒネりを感じます。飽きが来ず、何度も繰り返し聴ける。ついリピートしてしまうからくりです。Wikipediaを読むと、詞先で作曲されたかのように解釈できます。ちょっと独特な順番の音楽構成となったゆえんかもしれません。Aメロっぽくない歌詞を冒頭に書いた、阿久悠さんの意図でしょうか。
未来に向かう始点
『ふり向くな君は美しい』は敗者目線の曲との評に出会います。音楽オタクの私はつい耳で「音(オト)」のほうを追ってしまいますのでボンヤリしており、歌詞をあとからまじまじと読んで「確かに」と思う始末。
勝っても負けても、次の試合が控えています。高校サッカーにおいては、引退があり、「次の試合はもうない(これで最後だった)」という状況も考えられますが、でも、人生はずっと続いていく(…災害や犯罪、事故や健康の問題などにさいなまれない限りは…)のです。
ずっと、次(未来)があるのです。これからがんばって、未来をよりよいものに導く使命が誰しもにある。泥臭さを感じますし、青いパッションを感じます。
あるいは、今この瞬間、形勢が悪い試合中の選手の励みにもなるでしょう。うつ向いてる場合じゃない!レフリーの試合終了の笛が轟くまでに、未来(試合結果)を最高のものにしてやらねば!
選手の使命感を燃やす、終始一貫して緊張感のある楽曲の独創性が共鳴します。観客席から、ブラスバンドなんかがこの楽曲を奏でているのが耳に届けば、選手は奮い立ち、前のめりに走り続け、もっと活躍できるのではないでしょうか。
再会のハイタッチ
“うつ向くなよ ふり向くなよ 君は 美しい くやしさにふるえても 君は 美しい
ただ一度 めぐり来る青春に 火と燃えて 生きて来たのなら 誰の心も うてるはずだろう 誰の涙も誘うはずだろう
また逢おう いつの日か また逢おう いつの日か 君のその顔を 忘れない”
(『ふり向くな君は美しい』より、作詞:阿久悠)
ずっとずっと、命を燃やしながら今に至り、未来に向かってなおも「現在」を燃やし、推進し続けるのが生者の宿命です。
未知が消えてなくなることはありません。ずっと、「青い」部分はどんな大人にも、年長者にも残っているのです。いつか再会した日に、楽曲『ふり向くな君は美しい』が記憶の接点として心にあれば、その時ふたりはがっちり握手するか、ハイタッチでもするのか。その瞬間も、その人にとって、何かの試合の最中なのでしょう。再会のとき、過去にこなした試合、共に闘った苦しみが報われる一瞬かもしれません。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ザ・バーズ (日本テレビ音楽学院) ザ・バーズ。Bob Dylanの『Mr. Tambourine Man』をカバーした有名バンドではない”バーズ”がいたとは、初めて知りました。日テレのタレント養成学校生からなる選抜者グループ、という認識でよさそうです。
ザ・バーズ(The Byrds)のシングル『ふり向くな君は美しい』(オリジナル発売年:1976)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ふり向くな君は美しい(ザ・バーズの曲、全国高等学校サッカー選手権大会歌)ギター弾き語りとハーモニカ』)