いちご白書って何

いちご白書は原題を『The Strawberry Statement』というそうです。ジェームズ・クネン氏が学生闘争をテーマに書いたノンフィクションで1969年発表、翌年の1970年に映画が公開されました(Wikipediaによる)。

コロンビア大学の学部長さんが、大学運営についての学生たちの意見は「理にかなった説明がないのであれば、(たとえば、果物の)“いちご”を学生たちがどれだけ好きかという話に等しいくらい取るに足らないもの」というような主旨ともとれることを言ったとかで、それにちなんでノンフィクションのタイトルを「いちご白書」としたようです。「いちごを好きかという瑣末な日常会話程度に学生らの意見が扱われた」のを冷笑するようなタイトルネーミングだとも解釈できそうに思いますがどうでしょうか。

あるいは、学部長氏の「いちご発言」(勝手に命名)は、もし大学の運営に意見し、そのことを真摯に受け止めて欲しいのであれば、客観的に納得しうるよう、その意見のもっともさを、根拠に基づいてちゃんと説明する形で声を上げなさい!というニュアンスもあるのかもしれません。

そのことは、単に、周囲の見せる反抗に同調して否定的に言うだけの「議論」未満の学生の「声」が、学部長さんのジェームズ・クネン氏にとって罵詈雑言のように感じられたのかなと想像します。真に志があるなら、根拠に基づいて客観的に自己の正当性を主張しなさい、議論に足る議論をしなさい……と。

なんだか大学側の肩を持つような傾向になってしまいましたが、実際の学生運動、実際の当時のアメリカのそのあたりの実情や歴史、知識などの一切が私には不足していますので要勉強というところです。

とにかく、学生の闘争を題材にした映画が公開されたことは特に当時の日本の若い人たちにもセンセーションだったのかもしれません。高い関心を抱き、劇場に行った学生も多かったのでしょうか……と、楽曲『「いちご白書」をもう一度』を聴くと思います。

曲についての概要など

作詞・作曲:荒井由実。バンバンのシングル、アルバム『季節風』(1975)収録。

バンバン 「いちご白書」をもう一度を聴く

ばんばさんの、まっすぐで太さも感じる声の響きの質量感が印象的です。サビの張り上げる熱量と対比するように、メロの歌唱が繊細。

リズムを担うパートがメロでは身をひそめ、アコギのコードストラミングがひたすらにダウンビートします。ワンコーラス目がおわるまで、ビートの歩みを表現するのはひたすらアコギの1小節4回のストロークです。

2コーラス目に入るとベースが2拍目ウラにかけたストロークパターンをはじめ、ドラムスも恒常なリズムを敷きます。

メロウでドラマティックでつん裂くような、しかしマイルドなリードトーンのギターが泣き上げ、いつのまにか影をひそめていき、メランコリックな、若くて青っぽい少女の声のような「Ah」という歌唱が表層に浮かぶようにしてフェイド・アウトしてしまいます。

(社会の)背景とか、君とか、主人公などの登場人物の一帯のドラマ、時間の隔たりが生じるものが抽出されて数分の歌になる見事さときたら、ユーミン作の『恋人はサンタクロース』とか、竹内まりやさんの作った『駅』という曲やらを思い出します。

就職にこぎつけた期間一帯

“僕は無精ヒゲと髪をのばして 学生集会へも時々出かけた 就職が決って髪を切ってきた時 もう若くないさと 君に言い訳したね”

(『「いちご白書」をもう一度」』より、作詞:荒井由実)

このラインについて、就活をするときにいい印象をもってもらえるよう、就職が決まる前の時点で髪や髭をととのえるはずだから、決まってから切るのはおかしいといった指摘があるそうです。

優秀だから身なりをととのえる前でも受かったという説もあるといいます。それもなんだかホントっぽくてくすりと来る気もします。解釈って楽しいですね。

私も屁理屈をいっこ思いついたのでいわせてください。

就活にいそしむため、君に会うのが、主人公はちょっぴり久しぶりだったとしましょう。それで、面接とか就職試験とかに臨む時点ではもう髪や髭をととのえていたのですが、それから合格のしらせをもらうまでに君に会うタイミングはなく、君に会うのは、「面接や試験日と合格通知をセットにした期間ぶり」だったとしたら、“就職が決って髪を切ってきた時”と表現してもおかしくはない、と思えませんか?

「(面接や試験などを経て、)就職が決まって(というもろもろがあって)髪を切って(から、久しぶりに君に会いに)きた時」という、カッコ内が省略されていると。ちょっと無理やりすぎる屁理屈でしょうか。

60〜70年代くらいの採用に臨むときの履歴書って、写真とか貼るところはあったのでしょうか。いまほど、都市のあちこちに、「証明写真機」が設置されているとは思えませんが……みんな写真屋で履歴書に貼る写真を撮っていたのでしょうか。だとしたら、履歴書に貼る写真に映るまでの期間も含めて髪を切っていたことになり、君に会っていなかった期間は写真の準備の期間だけもうちょっと長いかもしれません……これも屁理屈ですね。名曲をテーマにしつつ駄文を連ねました。私も髪切ってこようか……。

青沼詩郎

参考Wikipedia>『いちご白書』をもう一度

参考歌詞サイト 歌ネット>『いちご白書』をもう一度

ばんばひろふみ 公式サイトへのリンク

『「いちご白書」をもう一度』を収録したバンバンのアルバム『季節風』(1975)

『「いちご白書」をもう一度』を収録した『GOLDEN☆BEST バンバン+ばんばひろふみ』(2009)

『「いちご白書」 をもう一度』を収録した松任谷由実の『Yuming Compositions: FACES』(2003)。オープニングの環境音は学生運動を思わせます。実際の学生運動を記録した音声をサンプルしたのかもしれません。楽曲のサウンドは現代そのもので、壮麗ですので学生運動の時代を回顧的に扱ったセルフカバーだといえます。このクールさがむしろアツい。エレピトーンのダウンビートと、左のほうに残るリズムのフェードアウトが遠い日の足音をずっと記憶に残す表現のようです。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『「いちご白書」をもう一度(バンバンの曲)ピアノ弾き語りとハーモニカ』)