五月の海 くるり 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:岸田繁。くるり主宰のコンピレーションアルバム『みやこ音楽』(2006)に収録後、ベストアルバム『くるりの20回転』(2016)に収録。

くるり 五月の海を聴く

出ました、くるり印の「テープコンプレッション」のオープニング。チュウィーン、という音が立ち上がる効果音みたいなやつですね。

ペダルスティールギターが目立っています。奥田昌也さんの演奏。極楽感あります。ドラムスは菊地悠也さんで、くるりのアルバム『ワルツを踊れ Tanz Walzer』(2007)にも参加している方ですね。軽快で出音に機微のあるところが好きです。

ベースのグモっとした独特のサウンドが特徴的です。大村達身さんがいる時期のくるり。ちゃきちゃきとアコギの音色がなお軽調。左右にアコギがダブって開いてあります。私の最も好きなタイプの定位設計の定型のひとつです。アコギは岸田さんだとしたら、アルペジオのオブリを添える感じのエレキギターが大村達身さんでしょうか。

バックグラウンドボーカルが可憐で、曲の中盤以降を華々しくします。乙女を感じる、くるり印なコーラスワークです。この感じのサウンドからはこの時期のくるりはもちろん、Coccoさんとのプロジェクト、Singer Songerも思い出します。

クラップが入ったりタンバリンが入ったり、後半にむけてチャキチャキとにぎやかで楽しげな雰囲気も満ちてきます。何やら、車や電車が耳元をかすめて通り抜けるみたいな、「シュン!」という謎の音が数度行き交うのも聴こえる気がします。なんの音なのでしょう。エレキギターなのか、リバース処理をした音も宙を漂います。

低音位が浮遊するハーモニーがまたくるりらしさです。こういう転回形のベースは西洋音楽にルーツがある匂いがします。くるりではお家芸のごとく頻出し、出会える音遣いですが、もっとポップソングやロックのアティテュードを持つアーティストの楽曲全般でこういう機微のある低音位づかいに出会いたいと個人的には思います。くるりはその先旗手、私にとってのフラッグシップです。

ボーカルの岸田さんの、おいしい響きが出る、おおむね中庸な音域を漂いつづけるボーカルメロディです。自然でカジュアルな雰囲気が楽曲を占めている理由かもしれません。「五月」というモチーフですが、この季節の過ごしやすい、暑くも寒くもない「楽さ」「快適さ」を楽曲が映します。

「海」は具体物としての「sea」でもあるかもしれませんが、何か、「思い」が地形のくぼみに溜まった観念の象徴であるようにも思います。

新年度がはじまって1ヶ月。日本の会計年度としては、いろんな「思い」が溜まり、交う季節にも思います。まさにこの時期に聴きたいくるり曲のひとつです。

青沼詩郎

くるり Quruli 公式サイトへのリンク

『五月の海』を収録したベストアルバム『くるりの20回転』(2016)

『五月の海』を最初に収録したくるり主宰のコンピ『みやこ音楽』(2006)。私がキセルをはじめて認知した『ハナレバナレ』を収録した、思い入れがある盤です。Rosa Luxemburg『橋の下』、ロボピッチャー『たった2つの冴えたやり方』なども記憶に残る傑作。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『五月の海(くるりの曲)ギター弾き語り』)