ドラマー猪俣猛さん
リズム&ドラム・マガジン(2025年1月号)を手に取りました。石原裕次郎が表紙の引力、インパクト(参照:石原裕次郎が表紙を飾る! 総力特集「昭和100年 ドラマーが“花形”になった黄金時代」掲載のドラマガ2025年1月号が12/16に発売)。
猪俣猛さんの特集のページをひらきます。彼の多様でタフなドラマーあるいは音楽キャリアの重要とおぼしき点をおさえてわかりやすくまとめられた序文。歌手たちのバックのレコーディングでも活躍した猪俣さん。参加した曲と歌手名の中に気になる名前。はしだのりひことクライマックス『花嫁』。あの快活に転げるようなタムタムと確かでグルーヴィなビートが脳内に再生され、あれが猪俣さんの演奏なのかと私のなかの音楽の糸がつながります。
花嫁 はしだのりひことクライマックス 曲の名義、発表の概要
作詞:北山修、作曲:端田宣彦・坂庭省悟。編曲:青木望。はしだのりひことクライマックスのシングル(1971)。
はしだのりひことクライマックス 花嫁(『ゴールデン☆ベスト はしだのりひこ』収録)を聴く
藤沢ミエさんのメロメロな引力と照りと質量のある歌唱。はしださんの光線銃で射抜かれた気分になる細かく激しく揺れる歌唱とかけあいます。この二人の強烈な活躍ひとつとっても名演です。
ふたりのボーカリストの圧倒もさることながら、演奏がすごい。
くだんの、猪俣さんのドラムス。タムタムのフィルインが目線を引き……バンドのエンジンに率先して火をつける推進力があります。メトロノームにへりくだるようなスクウェアな演奏なんか全部ブチ壊して捨てていいから、猪俣さんの演奏を聴け!といいたくなる……(まず私が聴きます)。
またベースの刻み込みが熾烈。そういう細かい分割はギターのオルタネイトストロークに任せれば良いものを……というくらいにうねる解像度でブイブイとバンドのエンジンにムチをいれまくるベースがドS?!なフィール。猪俣さんのドラムとあわさって、この2パートだけを注視していても終始楽しめてしまいます。ギター類が左右に開き、ダウンと跳ね上げ(アップ)のテクスチャを提示しつつ音像を広く豊かに確保します。
ストリングスの内声のふとした動き。はじけ、弾むようなブラス。火花が散るようなオケと入れ替わり立ち替わり、バックグラウンドボーカルが可憐に舞います。端のほうにはドラムを慕うタンバリンがチキチキと輝きを添えます。
編曲、演奏面でも日本の大衆歌史の100選に入れて申し分ない高みです。男声女声の華々しく力強いデュエットと、最強のオケの完璧な融合と調和と全霊の果し合い・ぶつかり合いがステレオトラックのなかで瑞々しく激流の渦を巻きます。ブラボー。
嫁入りは片道切符
花嫁は 夜汽車にのって
とついでゆくの
あの人の 写真を胸に
海辺の街へ
命かけて燃えた
恋が結ばれる
帰れない 何があっても
心に誓うの
『花嫁』より、作詞:北山修
現代と価値観が違う重みを感じます。
夜汽車は現代、かなり姿をくらましてしまった観念ではないでしょうか。そもそも「汽車」がない。電車になってしまいましたね。
鉄道の夜行便も、減ったのではないでしょうか。今でも全国のどこかにあるのかな? 新幹線や特急などの高速便の進化やパフォーマンスの向上のせいでしょうか。深夜バスなら今でも盛んに利用されているし便が出ていると思うのですが、現代の鉄道における夜行便の実情やいかに。
結婚に寄せる観念も時代の違いを思います。離婚もままあるし、ふるさとに帰ることも多いでしょう。でも、かつては結婚はまさしく家を出ることであり、一方通行の選択。片道切符だったのです。
小さなカバンにつめた
花嫁衣裳は
ふるさとの丘に 咲いていた
野菊の花束
命かけて燃えた
恋が結ばれる
何もかも 捨てた花嫁
夜汽車にのって……
『花嫁』より、作詞:北山修
花嫁衣裳の全成分が野菊の花束なわけはないはずです。これは比喩であり……ふるさとをおもう気持ちが花嫁の胸に確かにあるのを私に思わせます。
あるいは、すべてに円満に祝福された結婚とはいいがたい境遇であれば、式を挙げる予定や計画もちゃんと立っていない状況で夜汽車にのってお嫁にいくところなのかもしれません。そうであれば、郷土を思わせる小さな、「たったこれだけの」品物こそが花嫁衣裳のようなもの、それに相当するすべてである……という状況も考えられます。
勇ましい。自分の意志を貫くためであれば、大胆で強行な取捨選択をも厭わない。この恋の結実にはそれだけの重みがあるのです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>花嫁 (はしだのりひことクライマックスの曲)
『花嫁』を収録した『ゴールデン☆ベスト はしだのりひこ』(2010)
Rhythm & Drums magazine (リズム アンド ドラムマガジン) 2025年1月号 (総力特集:昭和100年 前編 ドラマーが”花形”になった黄金時代)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『花嫁(はしだのりひことクライマックスの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)